SNS&カスタムで若者需要を獲得
地域で築き上げた信頼を基盤に新事業拡大へ
群馬県高崎市は榛名山のふもとの中里見町に店舗を構えるENXIA /乾自動車整備工場は1963年創業。事業承継が進み、今では三代目で弱冠34歳の乾雅詞社長が代表を務める。三代続いた工場は鉄骨がむき出しで歴史を思わせる佇まいでありながら、Instagramはフォロワーが1万人を超え、全国規模で顧客を獲得しているという。立地条件をいとわない顧客獲得を実現する経営について話を聞いた。
【工場概要】社長 : 乾 雅詞 住所 : 群馬県高崎市中里見町367ー1 創業 : 1963年 従業員数 : 9人
事業承継と厳しい現実
乾自動車は1963年のモータリゼーションが花開いた時期に、現社長の祖父が都内からダイハツ・ミゼットを仕入れ、販売したのが始まりだ。当時は同地域に車両が少なく、交通の発展に大きく寄与。車販と整備を生業に同地域に欠かせない存在として現在まで根付いてきた。
乾社長がそんな同社に入社したのは3年前、自身の将来を見据えての選択だった。「物心ついた時から車に囲まれた生活だった」と話す乾社長。幼少期からサーキットに連れて行かれ、父の参加するラリー競技やサーキット走行や大会を観戦。そして免許取得前からサーキットへ通い、23歳のころにはドリフト競技で日本一の座に輝くほど車の世界にのめり込んだ。
その後整備専門学校へ入学。卒業後は10年間、群馬県のトヨタ系ディーラーに整備士兼営業担当として勤めていたが、「将来を考えた時に、このままでいいのか疑問に感じた」。高齢となった父母、そして自らの生家を思い、家業を継ぐ決断をした。だが待ち受けていたのは厳しい経営実態だった。
急成長と軋轢
「はっきりいって1年で潰れてしまうような状況だった」と乾社長は当時を振り返る。高齢の顧客が中心で、若い顧客は都心部へ出ていってしまっている。そしてEVやハイブリッドの台頭により、従来の整備では立ち行かない状況となっていた。当時は整備士1人と両親の3人体制で年間売り上げは約2,500万円。毎月の固定費と給料で赤字続きで規模を縮小し続けていた。
状況を打開するため、乾社長は2つの戦略を立てた。1つ目はSNSを活用した集客と認知度向上、2つ目はカスタムカー分野への進出だ。今までは地域の固定客が多かったところへ、車好きの若年層へカスタムで訴求した。ディーラーでは対応し難い法定内のカスタマイジングに対応して、施工事例をInstagramやTikTokなどのSNSを通じて拡散。自社のブランディングを図った。
狙いが当たり、乾社長の入社1年目で車検入庫は例年の3倍、年商は1億8,000万円へと跳ね上がった。しかし急成長とトレードオフするように乾社長は体調を崩し、また社内の軋轢が生まれていった。「その頃は寝ずに働いていて、ひどく体調を崩してしまった。また、父の代からの既存スタッフとの方向性の違いも生まれていた」。
「目先の成果だけでなく、自分自身のマネジメントや従業員との関係性、そしてその先にある会社の未来を見据えて、「社長として成長しなければならない」と痛感した。自身を変えるために経営者向けのセミナーに参加し、マインドセットの重要性について学んだ。
「何のために仕事をするのか、なぜこの会社で働くのか、そういった目的の一つひとつを自分の中で言語化していった」。会社の理念やビジョンを明確にしてスタッフと共有。スタッフとのコミュニケーションを深め、一人ひとりの目標や価値観を尊重する社風へと舵を切った。
感謝の気持ちが次につながる
現在まで順調に事業を拡大。車検入庫は1日平均2台以上。加えて月に15台ほどの新車・中古車を販売し、そして月に10台ほどカスタムカーが入庫している。SNS発信の甲斐もあり、福島県からオイル交換のためだけに訪れる客もいるほど、自社の根強いファンを獲得した。
さらに2年前には乾社長の義理の弟である山中督教氏の入社を機にデントリペア部門も開設。山中氏は業界未経験で他店での修業から始まった同部門も、これまでの施行台数は100台以上。また地域貢献にも力を入れており、前橋市での子ども食堂のイベントに参加。子どもたちが夢を外装に描いた「夢車」の展示や、整備体験イベントを実施している。
同社は事業拡大とともに、法人化、社名を“縁” と“幸せ” から取って「ENXIA(エンシア)」と改めた。ロゴマークには時計のデザインを採り入れており、「カーオーナーが当社に来る時間は人生の中ではほんの一瞬。その一瞬でも“車のことならエンシア” と思ってもらえるような存在になりたい」という願いを込めている。
「2年後にはもう1店舗出店したい。現在3期目で3.8億円の売上高だが、3年後には10億、15年後には100億円を目指す」と意気込む乾社長。「今の自分があるのは誰のおかげなのかを振り返れば感謝しかない。その気持ちが次の行動を生む」。ここまで導いてくれた家族、スタッフに感謝しながら、これからも斬新なアイデアと情熱で新たな道を切り拓いていく。





