バッテリー・電動化 技術をブランド化 コンセプトに終始しないEV
2023 年のジャパンモビリティショーでは、近未来を連想させる外装とともに自動運転技術や次世代音声認識、AIといった機能を盛り込んだ華やかなコンセプトカーが多かった。今回はそういった要素はほとんど見られなかった半面、カーメーカー各社が注力していたのは、“いかに技術的な強みをブランド化して車両へ投影するか”。また、国土交通省より発表されている2030 年度燃費基準の影響もあり、コンセプトカーだけでなく販売予定を見据えたEVが多く展示されていたのも印象的だった。
2028年までに量産車に全固体電池(SSB)を搭載する予定を発表し、商用車への応用も視野に入れているトヨタグループ。レクサスでは、その搭載予定車種としてレクサス スポーツ コンセプトを展示。SSBを搭載する際は専用プラットフォームでの運用を想定していると言う。
また既存のプラットフォームでは、バッテリーを載せた際の室内空間の確保といった課題が残りやすい。そのため、高さを要しない液体リチウムイオンバッテリーの開発を進めつつ、トヨタに展示されていたカローラ コンセプトのような低重心デザイン車両を展開していく。
日産では、来年度発売予定の新型エルグランドを初公開。内燃機関搭載車ではあるが、日産の電動化技術を活かした「第3 世代e-POWER」や、アリアなどに用いられてきた電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」が採用されている。10月初旬に発表されたリーフB7も展示され、急速なバッテリー劣化を防ぐバッテリー温度などを含めた熱管理システムが追加されていた。先行公開としてアリアも披露され、バッテリーの電力を取り出すことができるV2L(Vehicle to Load)機能を追加している。
EVをメイン展示していたのはホンダ。2027 年度に国内販売予定のHonda 0(ゼロ)シリーズから3モデル、北米市場に展開するアキュラブランドから、EVプラットフォームを採用した初モデルとしてRSX プロトタイプが並んでいた。
特に目を引いたのは、スーパー ワン プロトタイプ。専用開発の「BOOSTモード」を搭載し、ボタンを押すと出力が上がるだけでなく、エンジン搭載車のように運転者がギアを切り替える感覚に合わせて、エンジン音が響くという、エンジンのホンダを彷彿とさせる仕様だった。
ダイハツは、ストロングハイブリッドシステム搭載の次世代軽自動車K-VISIONを展示。軽自動車規格内にハイブリッドシステムのユニットとバッテリーを納めつつ、スライドドア式ということで、コンセプトカーながら発売が期待される車種として来場者の注目を集めた。
同様に、軽自動車のEVとして日本の軽自動車規格に合わせ、初の海外専用設計モデルを披露したのがBYD。2026年夏ごろに日本導入予定のRACCO(ラッコ)が該当する。ハイエンドブランドとして仰望(ヤンワン)からは、高性能BEVのスーパーカーとしてYANGWANG U9が日本初公開された。
また、BYD 独自のLFP(リン酸鉄リチウムイオン電池)ブレードバッテリーを採用した電気トラックT35には、車外への電力供給を可能にするV2L機能を搭載。ブースでは、バッテリーを活用した移動型サウナを提案し、国内販売は2026 年春を予定している。
初出展だったのはヒョンデ。次世代の急速充電器としてSERA-400を展示し、日本への導入予定も公表していた。また、キアは新型EVのPV5を2026 年春発売と発表。三元系バッテリー以外に、エントリーモデルとしてLFP(リン酸鉄)バッテリー搭載車種も追加する方針である。 (木下慶亮)
ADAS・SDV 単なる自動運転だけでなく、ドライバーの快適性や安全性も担保する
カーメーカーのADAS・SDV 関連では、トヨタ・ダイハツが、次世代軽商用EV、KAYOIBAKO-K(カヨイバコ・ケー)を公開した。単なる移動手段にとどまらず、データ連携や自動運転技術を活用し、「働き方そのものを変えるクルマ」として提案している。広々とした車内空間やフラットな床面、乗降時にはスロープが自動で展開し、車いすの利用者も快適に利用できる。
ホンダは、次世代EVシリーズ「Honda 0(ゼロ)シリーズ」の新モデルとしてHonda 0 α(ゼロ アルファ)のプロトタイプを公開した。車両の「コアソフトウェア」として、各ECUや車両制御システム、インフォテイメント、運転支援・自動運転機能などの統合を目指しており、OTAによる更新にも対応予定だ。
日産は、生成AIを活用した車載エージェントシステム「AutoDJ」を発表した。同システムは、自然な音声での対話を通して目的地を提案しドライバーをサポートするほか、目的地に応じて生成される観光案内など、パーソナライズされたコンテンツをAIラジオとして楽しむことが可能である。
部品メーカーに目を移すと、住友ゴム工業では、車両やタイヤの回転信号から得られる情報を複合的に解析するソフトウェア技術「センシングコア」と、外部環境に応じてゴム自らがウエット路面、氷上路面に適した性質に変化(スイッチ)する「シンクロウェザー」の革新的技術同士をかけ合わせることで、自動運転車の走行予定ルートの路面環境に対して、「センシングコア」で得た情報を活かし、「シンクロウェザー」で事前にタイヤを最適な特性や形状に変化させ、アクティブセーフティーな走行の実現を目指す。
デンソーではSDV 時代において、高度運転支援や自動運転など車の知能化が加速しており、これらの高度なソフトウェアを実行する高性能デジタルプラットフォームとしてSoC(システム・オン・チッ
プ)が注目されているとした。一般的なSoCと比較して、車載用途では熱、ノイズ、振動といった過酷な環境への対応が求められる。デンソーは長年にわたりこれらの技術課題に向き合い、安全性の高い開発を進めてきた経験を活かし、車に必要な高性能と信頼性を両立したオリジナルSoCの開発を進めている。
カヤバは路面状況に合わせてサスペンションの硬さや軟らかさをリアルタイムで調整する「フルアクティブサスペンション」を搭載したコンセプト車両MOYORI(モヨリ)を展示した。同じような技術は数年後には市場投入が期待されているが、Audi A8 55 TFSI quattro などの高級車や、中国のNIO ET9での採用が始まっている。
将来的により多くの車種に普及していくに当たり、整備面での課題も浮上してくる。特に整備事業者が注意すべき点として、これまで通りワイヤハーネスの断線や劣化だけでなく、電子制御が複雑に組み込まれ、各ホイールにパワーを供給する電気モーターを介して車高や減衰力を能動的に制御するため、ジャッキアップやリフトアップを行う前にシステムを停止させる必要があるなど、従来の機械式サ
スペンションとは異なる整備知識が必要になる。
今後の自動運転技術の開発におけるE2E(最初から最後まで一貫して)のAI活用には課題がある。E2EでAIが自動運転を行った場合、事故発生時にAIが「何を認知して、どう判断して、どう操作したか」が不明確になる問題が指摘されている。
一部国内メーカーはこうした懸念からE2E 方式の採用に慎重な姿勢を示している。事故が発生して人命が失われた場合、単に「次回修正します」では済まされないからだ。
一方、自動運転や運転支援技術にAIを積極的に活用する方針を表明しているボッシュは、AIの高性能を活かしつつ透明性と制御性を確保する技術モデルを提案している。
AIと自動運転の関係については、技術的な可能性だけでなく、安全性の確保、責任の所在の明確化、人間との協調など、多面的な検討が必要である。AI 技術を導入すれば自動運転が実現するという単純な図式ではなく、社会的受容性も含めた総合的なアプローチが求められる。 (古瀬敏之)

