待ちの姿勢を捨て、自ら価値を創り出す下請けの危機を乗り越えた三代目の挑戦
整備と架装の両軸で地域に根付いてきた井坂自動車。そして三代目の井坂俊之社長は自社の架装パーツブランド・CARVO(カーボ)を立ち上げ、海外から仕入れた商材とともに国際オートアフターマーケットEXPOなどの展示会にも出展し存在感を放つ。
現在のような業態に拡大したきっかけは、取引先ディーラーの取り扱い車種変更による架装業務の大幅減少だった。下請け依存から脱却し、新たな道を拓いた同社のこれまでと、井坂社長が描く業界の未来を追っていく。
【工場概要】社長 :井坂 俊之 住所 :茨城県水戸市城東2-1-38 創業 :1962年 スタッフ数 :6人
下請けの弱みを痛感
1962年、高度経済成長期の最中、茨城県水戸市に同社は創業した。当初は鈑金塗装、そして小型トラックやライトバンなどへのボデー架装が中心であったが、時代の流れで車検整備が業務に加わり、鈑金塗装は提携工場へ依頼するように。現在は水戸市には整備工場、茨城町には架装工場として分業してい
る。
現代表の井坂俊之社長は三代目。元々は大学卒業後カーディーラーへ面接に行ったが、「当社で働きたいならまずは専門学校で学んで来てほしい」と県外の自動車専門学校を勧められて入学。全寮制で自分より若い学生しかおらず入学した当初は後悔したという。
だがそこで若者たちの熱意にあてられた。「当時の学校には車好きの熱意ある若者が集まっていた。車を想う気持ちや知識で自分は負けていた」。そこで修理の技術だけでも勝たなければと奮起。努力の甲斐があり好成績で卒業した。
その後、最初に面接を受けたディーラーに就職、整備工として5年間勤めたが、「より実践的な技術を身に付けたいという思いと、車両架装のクリエイティブなところにも惹かれていた」と家業に改めて魅力を感じ、実家工場へと戻ってきた。
約8年前には早期の事業承継も済み、本格的に三代目体制がスタートした同社。しかし、同時期に工場に転機が訪れた。ディーラーからの下請けで行っていた架装の受注が車種廃止によって失われてしまった。
この時、下請けの弱さを痛感したという。「元請けの状況に左右されてしまう業態では先がないと感じた。整備件数も先細りが見えている中、自社の強みを活かした新たな武器が必要だった」。
自社製品開発で“販売元”へ
コロナ禍の当時、外出自粛の風潮のある中、アウトドア好きだった井坂社長が着目したのはキャンピングカーだった。事業承継から2年の期間をかけて自社の架装技術を活かした軽トラックの荷台にアルミフレームで構成する幌テント・CARVO(カーボ)を開発した。
「架装技術を製品化することで、これまでの待ちの姿勢を打破したかった自社が一貫体制のメーカーとなることで、独自の顧客を生み出すのが狙いだ」。このアイテムが好評を呼びコンスタントに受注している。従来の架装と合わせると売上比率は整備を逆転し上回った。
「整備をおろそかにするわけではない。むしろ接客の質を高めるため、フロント専業スタッフを配置した。接客対応からして、ネットでのクチコミ評価に反映され今後の来客に直接影響する。誠実・適切な修理対応が顧客との結び付きを作り、その評価が今度は新たな架装の需要を呼ぶ。
逆もまた然りで、常に評価されているという意識を持ち、地道だがSNSや展示会など対外発信による集客のチャンスは逃さないようにしている」。
海外に目を向け情報獲得と商材拡張へ
同社はさらにリザードスキンの特約店契約や、海外製の鈑金塗装用品や副資材、洗車用品の代理店となるなど自社のサプライヤー化を進めた。今では国際オートアフターマーケットEXPO(IAAE)をはじめとする展示会に出展するまでにビジネスの規模を拡大させた。
2月に開催されたIAAE2026にも出展。協業のカーエアコンクリーニング・松井修一氏らと共に来場者向けセミナーにも出演し、『整備、修理、コーティング、鈑金塗装だけじゃない! 町の整備工場が販路拡大と世界とつながる方法』と題して講演。
松井氏は世界の展示会の様子や自営業者にとって時間と資金の制約がある中でも新しい取り組みを続けることの重要性を話した。
そして井坂社長も自社の強みを活かした製品開発の経験を話しつつ、「自分を含めた中小企業が生き残るためには、積極的な情報収集と新技術の導入が不可欠だ」と強調した。
「松井氏とはインスタグラムでつながり協業をスタートした。これからの整備業界を維持、拡大していくには海外に目を向けなければならないという点で視座が合っている。同氏と協力して日本の技術者にも入手しやすい価格でツールを提供できるよう今後も開拓を進める」。両氏は4月に台湾で行われる展示会・TAIPEI AMPAにも視察に行くという。
少しでも業界を良くしていきたい
今年の10月には松井氏と共に兵庫県養父市にあるハチ高原で公道を貸切ったデモンストレーション走行や子ども達が自然のレジャーを楽しむ1泊2日のイベント・KEEP IN TOUCHを開催する。今回の公道の貸し切り許可取りには約4年の歳月がかかった。
「大人子ども関係なく楽しめるイベントにする。子どもたちにもイベントを通じて車を好きになってもらうことが未来の人材確保につながると信じている」。
祖業に軸足を残しながら多様な展開で業界存続のために尽力する井坂社長。今でも自動車大学校に入ったころのように車に詳しいわけではないと謙遜しつつも、「業界には素晴らしい技術や考えを持った人たちが大勢いる。全員がこの先も食べていけるように、少しでも業界を良くしていきたい」。





