ブリヂストン新商品の販売で県内1位を記録[福島県三春町]三春自動車工業 三春本店

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古瀬 敏之
ブリヂストン新商品の販売で県内1位を記録[福島県三春町]三春自動車工業 三春本店

 福島県の中核都市・郡山市からほど近い三春町。その、のどかな山道に三春自動車工業(三春自工)はある。歴史は戦後、現社長の祖父が機械いじりの延長で事業を始めたことに端を発する。その後、父親の代で法人化して、1962年に株式会社として設立された。

 創業当初は三春の城下町に拠点を構えていたが、事業の拡大に伴い手狭になったことから、1971年ごろ、現在の場所に移転。当時としては異例ともいえる山奥への移転であったが、「アクセスは不便でも土地が広くてサービスが良ければ顧客は来てくれる」という先代の先見の明があった。

【工場概要】社長 :田中 克昌  住所 : 東京都千代田区神田東松下町25 創業 : 1930年 従業員数 : 19人(うち整備士数 6人)

 先代が建てた工場は当初から「オープン工場」をコンセプトに設計されていた。ショールームからガラス越しに工場内部が見渡せる構造は、顧客に安心感と透明性を提供する。この開放的な空間は、現在の三春自工の強みとなっている。

 佐久間孝展社長が家業に戻ったのは28歳の時。それまでは自動車業界とは異なる商社に勤務しており、整備の知識はなかった。そのため、当初は自身の経験を活かせる販売に軸足を置き、スズキのディーラー「スズキアリーナ」として店舗をリニューアル。工場の一部を改築してショールームを拡張し、顧客満足度(CS)の向上に努めた。

佐久間 孝展社長

 販売強化路線は一定の成果を上げたものの、社内には徐々に歪みが生じ始めた。販売は伸びる一方で、会社の根幹である整備部門が疎かになる感覚があったからだ。もともと職人気質の強い整備士と営業部門との間に溝が生まれ、風通しの悪さも問題となっていた。

 転機となったのは、あるコンサルタントとの出会いであった。彼は、メーカーの看板を掲げるのではなく、長年地域で育んできた「三春自工」という名前こそが最大の資産であると説いた。この助言を受け、社長は自らの色を出すことよりも、会社の原点に立ち返ることを決意。ディーラー化から方針を転換し、地域に根差した整備工場としてのブランドを再構築する道を選んだ。

 新たな戦略の核となったのは、来店リピートの促進である。オイル交換、バッテリー、洗車といった、単価は低いが顧客が繰り返し利用するサービスを丁寧に行うことを徹底。特にオイル交換時には15項目の無料点検を実施し、ワイパーやタイヤの状態などを顧客に伝え、次のメンテナンスにつなげる仕組みを構築した。

 この地道な取り組みは着実に実を結び、現在、オイル交換は月間平均534台に達する。こうした小さな接点を積み重ねることで、顧客との信頼関係を深め、12ヵ月点検や車検、さらには保険や車両購入へとつなげていく。

 販売主導だったトップダウン型のビジネスモデルから、顧客との関係性を育むボトムアップ型への転換である。集客はチラシやロードサイドの看板がきっかけとなることもあるが、その多くは既存顧客からの紹介や口コミが占めている。

同社スタッフ

 加えて、同社が強みとしているのが「立ち会い車検」だ。車検入庫の約9割がこのスタイルで、顧客に工場で自らの車を見てもらいながら、整備士が部品の状態や交換の必要性を直接説明する。交換が必要な部品は、作業後に交換済みのものを見せることで、作業の透明性を担保している。

 この取り組みにより、顧客は整備内容に深く納得し、安心して対価を支払うことができる。車が生活に不可欠な東北地域において、日々のメンテナンスの重要性を顧客自身が実感する貴重な機会にもなっている。この信頼関係が、安定した経営基盤を支えている。現在、月に80~90台の車検を手がける。

エイミング作業の効率化のためにMAHLE TechPRO Digital ADAS 2.0を導入

 顧客との強い信頼関係は、タイヤ販売においても大きな強みとなっている。複数メーカーのタイヤを扱うが、販売の約8割はブリヂストン製品が占める。特筆すべきは、量販店で売れ筋となる廉価品ではなく、「レグノ」シリーズのような高付加価値商品の販売比率が非常に高いことだ。その実績はブリヂストン社からも表彰されるほどである。

売れ筋のタイヤがずらりと並ぶ

 この背景には、スタッフによる的確な提案がある。彼らは自らタイヤの試乗会などに参加し、各社タイヤの性能を実体験として把握。その経験に基づき、顧客の車種や乗り方に最適なタイヤを、メリット・デメリットを交えて丁寧に説明する。

 その結果、顧客は価格だけでなく性能に納得して商品を選ぶ。2025年には、ブリヂストンの新商品の販売比率で福島県内1位を記録した。これは、顧客が同社の提案を深く信頼している理由にほかならない。

店内にはブリヂストンタイヤソリューションジャパンからの感謝状が

 戦後の小さな町工場から始まり、時代の変化に対応しながら独自の進化を遂げてきた三春自工。販売強化路線という回り道を経てたどり着いたのは、「地域密着の整備工場」という原点だった。顧客一人ひとりとの地道な関係構築こそが、何よりも強固なブランドを築き上げる。これからも同社は、確かな技術と顧客との信頼を両輪に、地域のカーライフを支え続けていく。