工場ルポ[神奈川県足柄上郡]藤沢自動車

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渥美 紅里
工場ルポ[神奈川県足柄上郡]藤沢自動車

多角経営で自動車総合サービス企業へ
地域に根差し、10年先の整備業を見据える

神奈川県足柄上郡、交通量の多い県道78号線に面する藤沢自動車。約50年の歴史を持ち、創業から解体業、整備工場、新車・中古車販売、リース事業まで手がける総合サービス企業として地域に根ざした経営を続けている。車検整備の価格競争が進む最中、工賃の値下げをせずに直需率7割以上を維持している同社の経営には地域密着型工場のヒントが詰まっている。

【工場概要】社長 : 藤澤 亮介 住所 : 神奈川県足柄上郡大井町金手1078 設立: 1974年 従業員数: 16人

時代の変化をとらえ多角化へ

 神奈川県足柄上郡大井町に構える同社はバブル期にトヨタディーラーの営業マンだった先代が創業。始まりは自動車の解体業であったが、自動車整備業をスタート。そしてバブル終息期にはスズキの副代理店として車販業、さらに中古車販売業へ展開。現在へ続くスタイルを築き上げてきた。「バブル期には仕事量が豊富で解体業だけでも充分な利益があった。しかし、不景気への突入に合わせて1つの業態だけでは生き残れないと感じ、徐々に収益の柱を立てていった」(藤澤亮介社長)。
 車販業務では新車販売やリースした車両の基盤代替はもちろん、下取りによる中古車の商品化、再販売・再リースによる好循環を築いている。「新車販売からスタートしたサイクルも今では3サイクル目。カーメーカーなどの提供するメンテナンスパックを活用して顧客とのつながりを強固にしている」。自社の修理技術と各社のサービスと手厚いフォロー、そして地域の組合に加入して鈑金塗装工場と提携し修理業務を一括で請け負い、直需客7割以上を地で行く。

藤澤亮介社長
藤澤亮介社長

工場にはカーケア&タイヤショップの看板が大きく掲げられている
工場にはカーケア&タイヤショップの看板が大きく掲げられている
新車、そして商品化した中古車両が展示場を彩る
新車、そして商品化した中古車両が展示場を彩る

競争に巻き込まれない“強み”を持つ

 車検フランチャイズチェーンが台頭してきて、整備料金の競争は年々過熱している。そうした中でも同社は整備料金の値下げは行わない方針だ。「価格競争はできるだけ避けている。値段を下げると作業品質が落ちてしまう。あからさまに手を抜くというわけでなく、会社全体の士気を下げてしまう恐れを危惧している」。そこで技術の価値を下げずに別の収益源で補うことで他社との差別化を図っているという。
 実際に解体業や車両販売以外にも、同社はブリヂストンとカーケア&タイヤショップとして契約してタイヤを販売するほか、Mobil1の認定販売店としてオイルも展開。「整備料金では敵わなくとも、この店なら良いタイヤやオイルを安く買える、整備のプロに相談できる、と顧客に選んでもらう。そうした自社の強みをできるだけ多く持たせることが重要だと考えている」。

オイル販売にも力を入れ、トータルカー サービスを実現
オイル販売にも力を入れ、トータルカー サービスを実現
リースパックのカタログを手作り。 月々の支払いを可視化して訴求する
リースパックのカタログを手作り。 月々の支払いを可視化して訴求する

目標は地域一番店

 福祉車両やセニアカーの販売・整備も行い、地域の足を支える同社は、地域貢献活動にも余念がない。毎日の会社周辺の清掃に始まり、福祉事業所への寄付金提供や、地元の産業祭りへの参加など交流を欠かさない。「やはり自社が根差すこの地域の人々が一番の顧客だ。イベントには私だけでなくスタッフ総出で参加し、会社や社員を知ってもらう。見返りを求めるのではなく、自然と地域とのつながりを広げていくのが大事だ」。
 さらにフロントマンの教育にも力を入れており、加盟するカーリンクのコミュニケーションやコンプライアンスの研修にも定期的に参加。フロントには修了証が誇らしげに飾られている。「修了後には社員主導で企画を立ち上げ、洗車イベントを実施した。1回目は自分が入ったが、以降はスタッフ自身で企画の立案からイベント開催まで実施している」。イベントには多くのカーオーナーが集まり、そこから顧客として関係が始まった例もあるという。

リースパックのカタログを手作り。 月々の支払いを可視化して訴求する
リースパックのカタログを手作り。 月々の支払いを可視化して訴求する

事業承継を乗り越えて

 イベント立案などスタッフの意見が通る、チャレンジできる会社にしていきたいと話す藤澤社長。藤澤社長が先代から事業承継したのは5年前。「先代である父が昨年亡くなり、本当に自分一人で会社を引っ張っていかなくてはならないというプレッシャーがある」と本音を吐露した。「先代は親分肌で、周囲を先導するパワフルさがあった。比べて自分は社長としてもまだ若い。だからこそ風通しの良い社風を作り、複数の経営の柱を持つことで収益性を高めて、スタッフの幸福感を高められる会社にしていきたい」。
 同社は整備業界の今後を見据え、さらなる会社の発展を目指す。「今後10年間は安泰とは思うが、車両の進化のスピードは凄まじい。整備業がなくなることはないだろうが、かかわり方は大きく変化するだろう。先代が解体業から整備業まで裾野を広げたように業態にとらわれずに新事業を探しつつ、この10年で形にしていきたい」。(武井宏樹)