軽検協、令和8事業年度の事業説明会を開催

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古瀬 敏之
軽検協、令和8事業年度の事業説明会を開催

 軽自動車検査協会(軽検協、江角直樹理事長)は4月24日、令和8事業年度の事業説明会を開催した。江角理事長は、軽自動車の販売・保有台数の増加に伴う検査需要の高まりと、それに起因する人手不足や検査場の混雑といった課題を指摘。これらの状況を打開するため、手数料改定を原資として「DXの推進」「施設などの整備」「執行体制の整備」の3つを柱とした事業運営を進めていく方針を明らかにした。

「軽自動車は、生活の足、仕事の道具として増加し続けている」

 説明会の冒頭、江角理事長は昨年度の自動車販売状況に言及。新車販売台数全体が前年度比99.1%と微減する中、軽自動車は168万台を超え、同3.8%の増加となったことを報告した。この傾向は、軽自動車が「日本の道路事情に適した生活の足、仕事の道具として増加し続けている」実態を反映したものだと分析する。

 一方で、検査需要の増加やOBD検査導入による業務の複雑化に対し、協会の体制が追いついていない現状も吐露した。これまでは悪化した財務状況から増員や施設整備を凍結・先送りしてきた結果、多くの事務所で人手不足が深刻化し、検査場や窓口の混雑による待ち時間の増加が常態化しているという。

 本年1月の手数料改定による財務状況の改善を踏まえ、令和8事業年度はこれらの喫緊の課題解決に本格的に着手する。江角理事長は「受験者の利便性向上と職員の安全確保、そして確実な検査執行体制の維持・強化に取り組む」と述べ、事業計画の3本柱を提示した。

DXを活用し、受験者の利便性向上を図る

 主要施策の第一の柱は「DXの推進」である。経営企画検査担当の石田理事は、令和10年度に公開予定の次期電子情報処理システム(軽MOTAS)の開発を核に、ユーザー利便性の向上を目指すとした。

 具体的には、これまで新規検査と継続検査に限定されていたワンストップサービス(OSS)の対象を、住所変更や名義変更、中古新規、返納届出などにも拡大するための設計開発に着手する。さらに、事業者からのニーズが高いとされるOSS申請の平日夕方および土日・祝日への対応も検討課題に挙げた。実現すれば、週末に整備を終えた車両を週明けまで待つことなく申請できるようになり、ユーザーへの引き渡しがスムーズになることが期待される。

 このほか、自動受付機や自動更新機の導入による手続きのデジタル化、キャッシュレス決済への対応も進める計画だ。こうした取り組みの背景には、OSS利用率の着実な向上があり、令和8年3月末時点で継続検査は50.9%、新規検査は38.9%に達している。協会は今後も普及活動を推進し、検査場に来なくても手続きが完結する環境を整備することで、混雑緩和を図る構えだ。

踏み間違い事故で、同協会の職員を引いてしまう事態を防ぐ

 第二の柱は「施設などの整備」であり、特に職員の安全確保が重要なテーマとなる。これまで経営上の都合から抑制されてきた施設整備だが、今後は計画的に再開する。その一環として、千葉県の袖ヶ浦支所では混雑緩和に向けた第一期改修工事が完了し、連休明けの5月7日から新事務棟の供用を開始する。また、令和8年度は4事務所8コースで検査機器の整備を行う予定だ。

 とりわけ喫緊の課題とされているのが、検査コース上でのペダル踏み間違いによる事故対策である。近年、構内での事故は高水準で推移しており、人身事故につながりかねない危険な事案も発生している。この対策として、協会は二つの具体的な施策を打ち出した。一つは、下回り検査中に車両が暴走しても検査員を保護できるよう、大使館などで見られる突入防止ポールを設置する検証を進めること。もう一つは、受験者がコース脇に立たないと排ガス検査が開始できない「フットスイッチ」を、検証ではなく令和8年度中に全数導入することだ。石田理事は「引いたほうも引かれたほうも大損害。人身事故に至らないような形で進めていきたい」と述べ、対策を急ぐ考えを示した。

10年後には定年退職者が今よりも倍以上に増加

 第三の柱は、事業運営の根幹をなす「執行体制の整備」である。協会は定員778名に対し、令和8年4月1日時点で17名の欠員を抱えている。前年度の22名からは改善したものの、依然として人手不足は続いている。この状況を打開すべく、従来の新卒採用に加え、求人広告サイトを活用した中途採用(第二新卒・転職者)を強化し、安定的な人材確保を目指す。

 確保した人材の定着も重要な課題だ。近年の猛暑に対応するため、これまで事務所単位で導入していた空調服を本部主導で全事務所に配布する。また、職員からの要望が強かった評価・表彰制度の見直しなど、働きやすい職場環境づくりにも取り組む。さらに、不当要求対策の一環として、カスタマーハラスメントに関するビデオ講習を導入するなど、職員の心身の安全を守る施策も充実させる。

 江角理事長は就任1年の所感を問われ、最大の課題は「労働力不足への対応」であると明言した。協会の年齢構成を見ると10年後には定年退職者が倍増する見込みであり、人口減少社会において人材確保はさらに困難になると予測される。この未来を見据え、人材確保に全力を注ぐと同時に、DXによる業務の自動化・効率化を推し進め、少ない人数でも公正かつ確実な検査を実施できる体制を構築していく必要性を強調した。

 軽自動車が社会インフラとしての重要性を増す中、その安全・安心を支える検査体制の維持・強化は不可欠である。協会が掲げた3つの柱は、目の前の課題解決だけでなく、10年後を見据えた持続可能な事業運営への布石でもある。労働力不足という社会全体の課題にどう向き合い、テクノロジーを活用していくのか。協会の今後の取り組みが、日本の軽自動車社会の未来を左右することになるだろう。