今回は、A社が車検の予備検査を自社で完結できる体制を整えるため、ものづくり補助金を活用して設備投資を行い、生産性向上とサービス価値の向上を実現した事例をご紹介します。
A社は東北エリアで中古車販売と鈑金塗装を中心に20年以上事業を展開してきた整備事業者です。地域
密着で培った顧客基盤と技術力を強みに成長してきましたが、認証工場としての差別化が不十分で、予備検査を外部に依存していたため納期遅延や再検査の手間が生じるなど効率面での課題が顕在化していました。
SWOT分析では、A社が持つ鈑金塗装技術や整備士の高いスキル、地域顧客からの厚い支持といった強みが確認されました。特に、長年培ってきた技術ノウハウと、少人数ながら熟練メンバーがそろう組織体制は、安定した品質提供の根幹となっており、新たな設備導入と組み合わせることで、さらなる競争力強化が期待されていました。
一方で、検査設備が整っていないことや人員体制の制約が弱みとして浮き彫りとなりました。外部環境では、整備士不足により大手整備工場の受入余力が低下している点や、車齢の上昇に伴う整備需要の増加が機会となる一方、EV・電子制御技術の進展で整備内容が複雑化していることが脅威として挙げられます。
これらの状況を踏まえ、A社は「整備と予備検査をワンストップで提供する体制づくり」を次の戦略として位置付けました。
こうした方針を実現するため、A社はものづくり補助金を活用し、予備検査に必要なヘッドライトテスター、サイドスリップ・ブレーキテスター、スピードメーター検査用ローラーなどの機器を導入しました。これにより、従来外部に依頼していた検査工程を自社工場内で完結できるようになり、整備から検査までの流れが一体化されました。
作業工程の短縮はもちろん、不備が見つかった際に即座に整備に着手できるため、顧客への納車日を短縮できる大きなメリットが生まれました。また、近隣の整備事業者やユーザー車検代行業者からの予備検査依頼にも対応できるようになり、外部顧客の取り込みによる新たな収益機会の創出にもつながっています。
今回の設備投資額は約1,500万円で、導入後は入庫車両の回転率が向上し、生産性の改善が顕著に表れています。近隣地域にはワンストップで整備と予備検査を提供できる認証工場はほとんど存在せず、A社の利便性はそのまま他社との差別化要因として機能しています。
さらに、予備検査を入口に板金修理・塗装・定期整備・パーツ販売など周辺需要を取り込めるため、顧客一人当たりの売り上げ向上も期待できます。
A社は今後、指定工場の取得も視野に入れながら、地域の自動車整備インフラを支える存在としての役割を強化していく計画です。設備導入による効率化だけでなく、技術者の育成、地域事業者との連携強化を通じて、持続的な成長と地域への貢献を両立する体制づくりを進めています。
次回も、自動車アフターマーケット業界の事業者が実践する次の一手をご紹介します。
第11回に続く
※MSR2026年1月号掲載
(筆者プロフィール)
山田健一 株式会社フォーバル
国内大手EC会社にてマーケティングを担当。その後、大手M&Aアドバイザリー会社にて上場企業の経営戦略立案やM&Aアドバイザーとして数多くのM&Aを実行支援。2016年に(株)フォーバルの事業承継支援事業立ち上げに参画。自動車アフターマーケットでの後継者問題の解決、補助金支援に力を入れている。