ADAS車整備なんて怖くない! 第1回「まだ先の話」では済まなくなったADAS車整備-整備工場の前提が静かに変わっている

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MSRweb編集部
ADAS車整備なんて怖くない! 第1回「まだ先の話」では済まなくなったADAS車整備-整備工場の前提が静かに変わっている

 近年、自動車整備の現場を取り巻く環境は、大きく変わりつつあります。その変化は、新しい作業が増えたという話ではなく、「何を自社で判断できるか」という前提そのものが、いつの間にか書き換わっていた、という点にあります。

 代表的なのが、ADASです。AEBやLKASといった機能は、新型車や高級車だけのものではなく、軽自動車や商用車にも当たり前のように装着されるようになりました。それにもかかわらず現場では、「ADASはまだ先の話」、「警告灯が点いたらディーラーに任せれば良い」といった感覚が、今も完全には消えていません。

 これは整備士個人の意識の問題というより、長年通用してきた経験則と、現実のズレが目に見えにくかったことが背景にあります。

 ADASの普及に加え、整備事業者を取り巻く環境は複合的に変化しています。車両は電子制御化が進み、システム全体としての理解が求められるようになりました。一方で、整備現場では人材不足や作業者の高齢化が進み、車は高度化しているのに、それを支える人手は減っているという矛盾した状況が生じています。

 さらに制度面でも、特定整備制度やOBD検査の導入により、電子制御やADASは「知らなくても何とかなる領域」ではなくなりました。車両・人・制度の3つが同時に変化した結果、これまでのやり方が、そのままでは通用しなくなったという状態が生まれています(図1)。

 これまで多くの工場では、電子制御やADAS関連の作業について、「分からなければディーラーに任せる」という判断で、大きな問題は生じませんでした。しかし現在では、その前提自体が成り立ちにくくなっています。

 ディーラー側も人手不足が深刻で、自社入庫車両の対応を優先せざるを得ない状況が続いています。その結果、エイミング作業などを外注した場合、納期が想定以上に延びるケースが増えています(図2)。特に地方部では、外注が長期化すると「代車の返却予定が立てられない」、「代車が回らなくなる」といった問題が、日常業務に直結します。

 「外注すれば解決する」という判断が、必ずしも現場を楽にしてくれるわけではなくなってきました。重要なのは、外注か内製かを決める前に、「この車両はどこまで自社で判断できるのか」を見極める力が求められているという点です。

 こうした変化は、作業現場だけでなく、フロント業務や経営判断にも影響を及ぼします。受け付け時に「この車は自社で対応できるのか」、「どこまでが外注になるのか」を判断できなければ、見積りや納期を依頼主に示すことができません。

 結果として説明が曖昧になり、「確認してから折り返します」が増え、信頼低下につながることもあります。これは特定の作業者の技術不足という話ではなく、判断できないことそのものが、現場と経営を止めている状況だと言えるでしょう(図3)。問題は知識の量ではなく、「どこまで分かれば判断できるのか」が整理されていない点にあります。

 本連載では、車種ごとの詳しい作業手順やマニュアル解説は行いません。すべての作業を自社で行うことを目指す連載でもありません。目指すのは、ADASをブラックボックスとして避けるのではなく、「どこまでなら自社で判断できるのか」、「どこから先は外注すべきなのか」を説明できる状態になることです。

 整備作業を行わない経営者やフロント担当者にとっても、対応可否の判断や依頼主への説明に使える、考え方の土台をまずは基礎編として共有していきます。

 次回は、「ADAS車はまだ少ない」という感覚が、なぜ現場の実情とズレ始めているのかを見ていきます。新車販売台数ではなく、一般整備工場に入庫してくる車両を基準にした保有台数ベースの視点から、ADAS装着車が増え始めた本当のタイミングをデータで整理します。

(筆者プロフィール)
佐野和昭
 東北大学 工学部卒業後、トヨタ自動車へ入社。アフターサービス部門に配属され、品質管理からサービス企画・改善、部品のマーケティングまで幅広い分野を担当。その後、自研センターの取締役に就任。新しいアルミ修理技法などの修理技術開発を担当し、機械・工具メーカーなどと意見を交わした。現在は、車体整備をはじめとした整備関連業界において複数社の顧問を務めると同時に、セミナー講師やコンサルタントとしても活躍中。