今月から始まるこのコラムでは、これからも顧客に選ばれる整備工場であるために、「価値」に焦点を当てて整備工場を再定義していきます。「どういうこと?」と思われたかもしれません。少し補足させてください。
経営者の方にお話をうかがっていると、現在の整備工場の課題には「人手不足」と「新技術対応」を発端とするものが多くあると感じます。たとえば「仕事は潤沢にあるのに、整備士がいなくて受けられない」、「人材の育成が難しい」、「設備投資にお金がかかる」などです。こうした課題は工場ごとに環境や経営資源が異なるため、解決方法もさまざまです。
しかし、多くの整備工場を見ていると、解決すべき課題に優先順位をつけて、目指すべき方向を見つけるための共通した視点があると感じました。それが、顧客へ提供する「価値」という視点です。
顧客への提供価値は「機能価値」と「情緒価値」に分類できます。「機能価値」は整備工場が持つ技術や設備がもたらす価値のことです。たとえば「早い」、「正確」、「安い」などが該当します。

一方で「情緒価値」は顧客の感情や感覚に訴える価値のことです。点検整備で顧客が「ホッと安心」したり、分かりやすい説明を聞いて「なるほど!」と納得するなど、顧客の気持ちに届く価値を指します。
決して、どちらが大切か? どちらが優れているか? という話ではありません。大切なのは、現在、自分たちが顧客へ提供している価値を整理すること。そして、今後、自社のありたい姿へ近づくために必要な提供価値を考えることです。
そうすることで、現在と理想のギャップが明確になり、ギャップを埋めるために導入すべき設備やシステム、採用する人材、優先して解決する課題や強化するポイントなどが見えてきます。
次回から「機能価値」と「情緒価値」を整理していきます。連載の前半は技術や設備などの「機能価値」をどう磨くか、中盤では顧客の気持ちに届く「情緒価値」をどうつくるかを掘り下げます。後半は、それらの取り組みが整備士にもたらす変化を考えます。この連載が、皆さんと一緒に工場運営を考えていくきっかけになればうれしく思います。
(筆者プロフィール)
田中伸朗 株式会社ナルネットコミュニケーションズ
自動車ディーラーで整備士・フロント業務を経験。その後、整備士教育や現場改善研修を中心に活動。2021年にナルネットコミュニケーションズに参画し、Webメディア「モビノワ」を立ち上げ。整備工場への情報提供や補助金支援を通じて整備業界の活性化に取り組んでいる。