深刻化するエンジンオイル不足。中東情勢が招く“令和のオイルショック”と自動車整備工場の対策

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長谷川 明憲
深刻化するエンジンオイル不足。中東情勢が招く“令和のオイルショック”と自動車整備工場の対策

自動車整備の現場において、日々の業務に欠かせない「エンジンオイル」。エンジンオイル交換はカーオーナーにとって身近な整備作業の一つであり、自動車整備工場にとっては顧客との接点を創出する定番サービスメニューである。

しかし2026年現在、このエンジンオイルが異次元の供給不足に陥り、「石油元売りメーカーから受注停止の通達が来た」「特にディーゼルエンジン(DE)用オイルが手に入らない」といった悲鳴が全国の整備工場から上がっており、多くの自動車整備工場がかつてない危機に直面し、「令和のオイルショック」とも呼べる事態に発展している。

この記事では、単なる品薄やコスト高の次元を超えたエンジンオイル不足の最大の要因である「中東情勢」の影響と、自動車整備業がこの非常事態を乗り越えるための具体的な対策について解説する。

現在起きているエンジンオイルの深刻な不足は、2026年春以降に激化した中東情勢の緊迫化が最大の引き金となっている。主な原因は以下の3つである。

現在最も深刻なのが、エンジンオイルの主成分であるベースオイルの供給逼迫である。特に中東地域における巨大な製油所の稼働停止や、ホルムズ海峡等における地政学的リスクの高まりにより、中東産(カタール産など)の高品質なグループⅢベースオイルの供給が急減した。これにより、メーカー側でオイルを製造したくても「原材料がない」という根本的な問題が発生している。

中東情勢の緊迫化は、中東産原油(ドバイ原油など)への依存度が高い日本経済に直撃している。1バレル当たりの原油価格が急激に跳ね上がっていることに加え、1ドル=150円台前後で推移する長期的な円安が重なり、調達コストは爆発的に上昇。価格改定の1ヵ月以上前に見積りが来るのが通常だった業界の常識は崩れ、価格よりも「まずはモノを確保する」ことが優先される異常事態となっている。

「来週には在庫がなくなるかもしれない」という危機感から、流通の各段階でオイルを確保しようとする動きが加速し、需要が供給をはるかに上回ってしまった。さらに事態に拍車をかけているのが、ペール缶やドラム缶、さらには容器を洗浄する溶剤の不足である。中東情勢に端を発したサプライチェーン全体の混乱が、文字通り「連鎖的な物資不足」を引き起こしているのである。

このエンジンオイル不足は、自動車整備工場の「利益率の低下」といったレベルを超え、「事業の継続」そのものを脅かしている。

業務の強制ストップとスケジュールの遅延

在庫が尽きれば、車検や法定点検、納車整備などの根幹業務が成り立たなくなる。特に影響が顕著な大型車・ディーゼル車を扱う整備工場では、顧客の物流インフラにまで影響を及ぼしかねない。

国や行政を巻き込む事態への発展

現場の混乱を受け、国土交通省が2026年4月に「燃料油や石油製品等の供給に関する相談窓口」を全国に設置する異例の事態となった。オイルやシンナーが届かないという相談が相次いでおり、業界全体が国レベルの対応を迫られている。

仕入れ値の高騰による資金繰りの悪化

モノの確保を優先するあまり高値での仕入れを余儀なくされ、価格転嫁(顧客への値上げ)のタイミングを見誤れば、一気に資金繰りが悪化するリスクを抱えている。

エンジンオイル不足の長期化を見据え、自動車整備業は「平時の対応」を捨て、以下のような緊急対策を講じる必要がある。

複数ルートの確保と「代替グレード」への柔軟な移行

特定の元売りや1社の部品商・卸業者に依存する体制はあまりにも危険である。複数の仕入れルートを確保すると同時に、グループⅢのベースオイルが枯渇している現状を踏まえ、指定銘柄に固執せず、一時的にグループⅡベースのオイルなど、入手可能な同等スペックの代替エンジンオイルを柔軟に採用・テストする決断が不可欠だ。

躊躇のない価格改定(値上げ)の断行

原材料費だけでなく、容器代や物流費も含めたあらゆるコストが高騰している今、自社の企業努力だけで価格を据え置くのは限界を超えている。仕入れ価格の変動に合わせて、オイル交換料金の適切な価格改定を躊躇なく断行すべきである。これは利益拡大のためではなく、適正なサービスを維持し、店舗を存続させるための防衛策である。

顧客への「事実の開示」と丁寧なコミュニケーション

価格改定や銘柄の変更に対して、顧客の理解を得ることは容易ではない。だからこそ、「なぜ違うオイルを使うのか」「なぜ値上げが必要なのか」を、「中東情勢による業界全体の非常事態」として包み隠さずていねいに説明すべきである。店頭へのPOP掲示や、LINE・SNS・DMを活用した事前告知を通じ、誠実なコミュニケーションを図ることが、結果的に顧客の信頼維持につながる。

2026年に激化した中東情勢を背景とするエンジンオイル不足は、一過性のトラブルではなく、日本の自動車整備業界の供給網の脆さを浮き彫りにした。

完全な供給安定化には数ヵ月からそれ以上の期間を要する見込みが強い。自動車整備業としてこの難局を生き抜き、顧客のカーライフを守り続けるためには、「代替品の柔軟な活用」「適正な価格転嫁」「顧客への誠実な説明」の3本柱が不可欠である。今こそ業界の常識にとらわれず、環境変化に即応できる強靭な整備工場づくりを進めていくべきだろう。