独立行政法人自動車技術総合機構(NALTEC)が発表した最新の統計によると、令和7年7月から12月にかけてのロービーム計測(過渡期取扱いを含む)による全国平均合格率は、95%から96%という極めて高い水準で推移している 。周知期間の延長や、現場での事前調整が奏功し、当初懸念された検査コースでの大混乱は回避された形だ 。しかし、この「96%」という数字を額面通りに受け取ることはできない。そこには、検査以前の段階で「車検継続を断念」せざるを得なかった旧型車ユーザーの姿が反映されていないからだ。
表面化した「光量不足」と制度の矛盾
平成10年9月以降に製作された車両を対象とする本検査は、本来「実走行での安全性向上」を目的としている 。しかし、現場が直面しているのは、オートライト義務化や「原則ハイビーム」という交通法令の潮流と、ロービームのカットオフラインや光度に固執する検査実務との乖離である。
特に経年車においては、レンズの白濁やリフレクターの銀鏡剥離により、ハイビームでは基準を満たせても、ロービームでは光度が低下する個体が少なくない。検査不合格を恐れ、受検前に廃車や買い替えを選択したケースが相当数存在すると見られ、統計上の「合格率」は実態としての「維持継続率」を保証するものではない。
パーツ供給に横たわる「意匠権」の壁
近年、一部の新モデルでは事故修理費の低減を目的として、レンズのみの交換が可能な部品構成も広がりつつある。しかし、現在まさに劣化に苦しんでいる旧型車については、依然として「ASSY(アッセンブリー)交換」が主流だ。
ここで大きな障壁となるのが、カーメーカーが握る「意匠権」である。ヘッドライトは車両デザインの根幹をなすため、カーメーカーは強力に権利を保持する。一方で、年数が経過すれば製造を廃止し、市場から純正部品が消滅する。サードパーティによる良質な互換部品の供給も、この意匠権の壁に阻まれ、ユーザーは「直したくても直せない」袋小路に追い込まれている。
カーメーカーの社会的責任はないのか?
安全を担保するための検査制度を維持するのであれば、それを支える部品供給体制への法的強制力があっても良いのではないか。
- 重要保安部品の長期供給義務: 意匠権を独占する以上、カーメーカーには対象車両が生産終了後、平均使用年数以上の部品供給、あるいは補修用部品の製造権利をサードパーティへ開放する義務を課す。
- 不当な価格高騰の抑制: 部品代の上昇を消費者物価指数以下に抑えるなど、ユーザーが安全を「買い続けられる」環境整備が不可欠だ。それが難しいのであれば、ディーラーには3割引きで部品を供給し、それ以外にはほぼ定価で販売する2重価格と言える不均衡な部品流通を改める。
NALTECが適切な整備・調整を呼びかけるのであれば 、その前提となる「整備するための手段(部品)」をカーオーナーから奪ってはならないのではないか。
