事例と解説 整備工場のための補助金活用講座 第8回 事例:短時間車検にチャレンジ

  • #短時間車検
  • #補助金
ライター写真
MSRweb編集部
事例と解説 整備工場のための補助金活用講座 第8回 事例:短時間車検にチャレンジ

 今回は、自動車販売・整備を行うA社が、生産性向上のためリフトとテスターを購入された事例をご紹介します。

 A社は関東エリアで長年にわたり自動車販売・整備・鈑金塗装・保険代理業を手がける中堅企業であり、地域密着型のサービス提供を強みとしています。戦後まもなくに創業して以来、顧客に寄り添った対応を重視しており、特に整備・車検分野では「立ち会い型車検サービス」が高い評価を受けています。

 一方、コロナ禍や人気車のモデルチェンジがないことによって新車販売が低迷し、近年では中古車やカーシェアの需要が増加しています。この3年間で新車販売は5%減少し、収益面では赤字転落を余儀なくされています。

 A社の課題は、整備部門の高稼働による処理能力の限界と、紙ベースの作業による業務効率の低下です。整備ピットは常に90%以上の稼働率を維持していますが、1台当たりの車検時間は平均70分を超え、紙への手書き記録や書類の二重管理が整備士や検査員の負担となっています。

 さらには、ヒューマンエラーのリスクや、法令対応力にも課題を抱えています。

 こうした状況を打破すべく、A社はものづくり補助金を活用し、「短時間車検サービス」の事業化に取り組むこととしました。新たに整備ピットを1基増設し、全体のキャパシティーが25%向上することで年間処理台数は現状の2,000台から2,500台へと増加する見込みです。

 加えて、デジタル検査システムを導入し、QRコードによる車両情報の自動読み取り、検査データのクラウド管理、整備記録の自動入力、車検合格値の自動算出などを実現します。これまで手作業だった工程が一気に効率化され、記録の信頼性や検査の透明性も向上します。

 この取り組みによって、立ち会い車検の平均所要時間は10分以上短縮され、1時間以内での完了が可能になります。ステッカーや車検証もその場で発行され、顧客の利便性が大きく向上します。加えて、整備リフトには車両に応じてプレート式とスイングアーム式を使い分ける設計を採用し、より柔軟かつスピーディーな整備対応が可能となります。

 今回の投資総額は約1,300万円に上りますが、既存の人員体制のままで台数増に対応可能と試算しており、生産性向上とコスト削減の両立を目指しています。

 代車が不要となる点や、業務の省力化による人件費の低減効果も価格競争力の源泉となります。顧客にとっては「短時間・高品質・リーズナブル」という魅力的なサービスが提供され、企業としてはLTV(顧客生涯価値)の向上やリピーターの増加といった副次的効果も期待されています。

 今回の整備体制の刷新は、単なる効率化ではなく、整備業の信頼性と顧客体験を同時に高める施策といえます。A社のように、技術力とデジタル化を掛け合わせて差別化を図る中小企業の動きは、これからのアフターマーケットにおける競争戦略の一つの方向性を示しています。

 次回も自動車アフター業界の事業者の次の一手をご紹介します。

※MSR2025年11月号掲載

(筆者プロフィール)
山田健一 株式会社フォーバル
国内大手EC会社にてマーケティングを担当。その後、大手M&Aアドバイザリー会社にて上場企業の経営戦略立案やM&Aアドバイザーとして数多くのM&Aを実行支援。2016年に(株)フォーバルの事業承継支援事業立ち上げに参画。自動車アフターマーケットでの後継者問題の解決、補助金支援に力を入れている。