研磨作業は同じ車両や塗装を前にしても、技術者によってポリッシャーとコンパウンドの選択は異なり、工程の組み立て方も違う。経験と感覚が積み上げる世界であり、だからこそ言語化が難しく共有もしにくい。しかしこの‟閉じた技術”をこじ開けようとする動きが始まっている。
7月15日、日本ディテーリング協会(丸山義昭会長、以下JDA)がカーメイクアートプロ(大阪府堺市)で開催した「公開技術チャレンジマッチ―世界基準の技術へ挑む―」は、その象徴的な試みであった。ベテランとルーキー、2人の技術者が同一条件下で60分間の研磨作業を行い、その様子をリアルタイムで配信する。勝ち負けではなく、思考のプロセスを共有するための場である。


競技ルールと配信体制
競技の制限時間は60分で、作業パネルはボンネットとフロントドア。ポリッシャーやバフ、コンパウンドといったツールは選手自身が用意し、禁止事項は特に設けていない。つまり、「何を選び、なぜそれを選んだか」という判断そのものが、技術力の表現となる仕組みだ。
配信体制も本格的であった。会場全体を映す定点カメラに加え、各選手に専属のインタビュアーとカメラを配置。さらにサーモカメラによる温度測定も行われ、シングル及びダブルアクションポリッシャーによる熱の入り方の違いがリアルタイムで可視化されていた。当日、会場には約50人が訪れ、Zoomでの参加を含めると総勢約130人が見守るなか競技がスタート。途中ではWebの同時接続が約200人に達した。


ベテランの判断力
丹下竜太選手はシングル2工程
ベテラン枠として参戦したのは、広島県広島市で「しゃかりき」を屋号とするBest Oneの代表取締役・丹下竜太氏。当初、シングルアクションポリッシャーとウールバフでの1発仕上げを想定していたが、前日のマッチングテストでテスラの塗膜ではコンパウンドの特性を十分に引き出せないことが判明。塗膜の体力面も考慮し、同ポリッシャーでの2工程仕上げに切り替えた。
使用コンパウンドはファイヤーボールのオールインワンタイプ(日本国内で購入できるものとは配合が異なる)。パッドにはケヰテック・ディンプリングスノウボードを採用し、毛足の薄い同社・シルキーメインで浅いバフ目を狙った。最終工程ではウレタンバフに同社・シフォンバフSを使用して仕上げている。研磨後、「いい感じになったのではないか」と振り返り経験の厚みを感じさせた。


ルーキーの誠実さ
嶋田加奈選手はダブルアクション3工程
一方、ルーキー枠として参戦したのは、北海道旭川市でAUTO DETAIL Jewelの代表を務める嶋田加奈氏。ダブルアクション3工程という、ベテラン枠とは異なるプローチを選択した。
ポリッシャーはルペス・マークファイブ(15mmオービット)、コンパウンドはスペキュラー・iZA01~04番を使い分け、初期~中間研磨にはクッション性のある分厚いバフ(22mm)とスリットの入ったスポンジバフなどを使用。仕上げにはベイルのバフを使用して目の細かさとバフ目の除去性能を重視した構成である。「正直、まだまだ磨き足りない。傷も残っている部分がある」と自身の仕上がりに対して課題を語り、技術者として研磨作業に対し真摯に向き合う姿勢を垣間見せた。


数値が語る、機械運動の差異
競技中には、色彩測定器を用いて仕上がりを数値で可視化した。ボンネットのL*値は作業前が2.29〜2.38であったが丹下氏の測定値は1.67、嶋田氏の測定値は1.79。シングルアクションとダブルアクションの機械運動の違いが数値として表れた。

もちろん、この数値だけで技術の優劣を判断することはできない。だが、これまで「見た目」や「感覚」でしか語られてこなかった仕上がりの差を、客観的な指標で示したことの意味は大きいだろう。自動車整備の世界では、トルク値や圧力値など数値による品質管理が当たり前である。ディテーリングの領域でもこうした測定による可視化が標準化されていく可能性をこの試みは示している。

JDAでは次回、8月にAIをテーマとした例会を予定している。