酷暑日の熱中症対策 整備工場のスタッフを守るガイドライン

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長谷川 明憲
酷暑日の熱中症対策 整備工場のスタッフを守るガイドライン

気象庁が設定した最高気温40度超の「酷暑日」が初観測され、整備工場の熱中症リスクは過去最高レベルに。従業員の安全を守るため、最新データに基づく危険性と厚生労働省の予防ガイドラインを網羅解説。義務化された対応から即導入できる対策まで徹底提案!

気象庁が新たに最高気温40℃以上の日の名称として設定した「酷暑日」が初めて観測されたことが連日ニュース等で大々的に報じられ、日本列島を襲う猛烈な暑さに大きな衝撃が走っている。

連日のように危険な暑さが続き、エアコンの効きにくい工場内で車検や整備作業にあたるスタッフの様子を見て、「この暑さで倒れてしまわないか……」と頭を悩ませていないだろうか。

結論から言うと、整備現場における熱中症対策は単なる体調管理の域を超え、経営者が果たすべき法的・安全上の最重要義務である。2025年の職場での熱中症死傷者数は過去最多を記録しており、自動車整備が含まれる製造業等は特にリスクが高い

労働安全衛生規則の改正に伴い、発症時の報告体制や緊急措置手順の整備・周知は罰則付きで義務化されている。本記事では、厚生労働省のガイドラインや最新の発生データに基づき、整備工場で今すぐ導入すべき熱中症対策を徹底解説する

「うちは今まで大丈夫だったから」という油断は極めて危険だ。厚生労働省の労働者死傷病報告データをもとに、職場の熱中症がいかに深刻化しているかを客観的な数値で把握しておこう

職場における死傷者数は過去最多を更新

2025年の職場における熱中症による死傷者数(休業4日以上)は1,803人に達し、統計開始以来最多を記録した。前年の1,257人から約43%も激増しており、背景には近年の記録的な猛暑がある

死傷者数(人)うち死亡者数
2021年56120
2022年82730
2023年1,10631
2024年1,25731
2025年1,80319
出典:厚生労働省「2025年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」

死傷者数のうち、製造業(365人)や建設業(292人)が大きな割合を占めており、屋内作業と屋外作業が混在し身体負担の大きい整備工場も非常に危険な環境にあると言える

発生ピークの時期・時間帯・年齢層の特徴

過去5年間(2021年〜2025年)のデータ分析から、以下の傾向が明らかになっている

  • 月別:7月・8月に全体の約77%が集中
    暑さに体が慣れていない6月下旬から急増し、7〜8月でピークを迎える。
  • 時間帯:午前中および14〜15時台に多発
    死亡災害の多くは午後に発生しているが、注意したいのは「帰宅後や夕方(17〜18時台以降)の急変・死亡ケース」。日中に症状が出なくても、作業終了後に体調が急激に悪化することがある。
  • 年齢層:50代以上が死傷者の約52%、死亡者の約65%
    加齢に伴い「暑さ」や「喉の渇き」を感じる感覚機能や体温調節機能が低下するため、ベテラン整備士ほど重篤化しやすい。

厚生労働省の「職場における熱中症防止のためのガイドライン」に基づき、整備工場で実践すべき対策を「設備・体制整備」「環境・作業管理」「健康管理・教育」の3つの軸で解説する

1. 【義務化対応】報告体制と緊急措置の手順整備

労働安全衛生規則の改正により、事業者は以下の措置を講じることが法的義務となっている

  • 報告体制の整備と周知 作業者が自覚症状を感じた際や、体調の悪そうな同僚を発見した際に、「誰に報告するか」のルートを明確にし、全スタッフに周知する。
  • 緊急措置手順の作成と周知 以下の項目を記載した手順書を作成し、現場に掲示・周知する。
    1. 事業場内の緊急連絡網、緊急搬送先の医療機関の連絡先および所在地 PDF
    2. 作業離脱、身体冷却、医療機関への救急搬送などの具体的な実施手順 PDF

2. 作業環境の改善と有効な休憩所の設置

リフト周辺やピット内は熱がこもりやすく、エンジンの熱気も加わるため、積極的な環境整備が不可欠なエリアである。

  • WBGT値(暑さ指数)の測定 JIS適合の黒球付きWBGT指数計を整備工場内に設置し、定期的・定点的に数値を把握する。基準値を超える場合は即座に対策を強化する。
  • スポットクーラーや大型扇風機の導入 作業場所に風を送り、発熱体(車両エンジン等)からの熱を逃がす。
  • 冷房の効いた休憩所の確保 単に日陰を作るだけでなく、「エアコンが効き、脚を伸ばして横になれるスペース」と「冷たい水・塩分補給設備(ウォーターサーバーや冷蔵庫)」を備えた休憩所を用意する。

3. 適切な作業管理と水分・塩分補給のルール化

  • 通気性・機能性ウェアの導入 ファン付き作業服(空調服)や保冷剤を入れるクールベスト等の着用を推進・支給する。
  • 定期的な水分・塩分補給 「喉が渇く前」に、20〜30分ごとにコップ1〜2杯程度の水分と塩分を摂らせる。
    • 推奨: 0.1〜0.2%の食塩水、またはナトリウム 40∼80mg/100mL を含むスポーツドリンク
    • 注意: 経口補水液は塩分濃度が高いため日常的な予防補給には不向き。
  • 計画的な「暑熱順化(しょねつじゅんか)」 暑さに体を慣れさせるには最低1週間かかる。特にお盆休みなどの長期休暇明けは暑熱順化が抜けているため、休み明け数日間は作業量を調整する配慮が必要となる。

万が一、整備中に体調不良者が出た場合の迅速な対応が、命を救う分かれ目となる

応急処置の鉄則

  1. 一人にしない:体調が悪化したスタッフを放置せず、必ず誰かが付き添う。
  2. 涼しい場所へ移動:冷房の効いた部屋や風通しの良い日陰へ移動させ、衣服を緩める。
  3. 身体の冷却:首の筋の両側、脇の下、太ももの付け根などを氷パックで冷やす。プレクーリングとして手足の浸水や送風スプレーも有効。
  4. 水分・塩分補給:意識があり自力で飲める場合はスポーツドリンク等を与える。
  5. 迷わず救急車を呼ぶ:意識がない、呼びかけへの反応がおかしい、自力で水が飲めない、吐き気や激しい頭痛がある場合は、躊躇なく119番通報する。

整備工場における熱中症対策は、スタッフ個人の「根性」や「自己管理」に頼る時代ではない。経営者がリーダーシップを発揮し、設備投資と体制整備をルール化することが、貴重な整備士の命と工場を守る唯一の方法である

  1. 報告体制・緊急手順を文章化し、全スタッフへ周知する(法的義務)
  2. 冷房の効いた休憩所とウォーターサーバー、ファン付き作業服を用意する
  3. WBGT(暑さ指数)を計測し、20〜30分おきの水分・塩分補給を義務化する
  4. お盆休み明けなどの長期休暇後は作業強度を落とし、暑熱順化に配慮する

今すぐ整備工場の環境と手順を見直し、酷暑期を無事故で乗り切る万全の体制を整えてほしい。


(関連リンク)
厚生労働省 職場における熱中症ポータルサイト