ADAS車整備なんて怖くない! 第2回 数字で見ると、現場はもう動き始めている-なぜ今、電子制御整備なのか

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MSRweb編集部
ADAS車整備なんて怖くない! 第2回 数字で見ると、現場はもう動き始めている-なぜ今、電子制御整備なのか

 前回は、電子制御整備が避けられない背景と、一般整備工場の現場で「判断力」の重要性が高まっている理由を整理しました。ADAS車の入庫については、現場では「徐々に増えてきたが、その増加のスピードは速くない」、「まだ急増している感じはしない」といった声を聞くことも少なくありません。

 しかし実際には、装着車はすでに一般整備工場の入庫車両の中に入り始め、今後その増加は加速する見込みです。ただし、その変化は新車販売台数におけるADAS装着車の割合だけを見ていても分かりにくいのが特徴です。そこで今回は、一般整備工場の現場に直結する「保有台数」という視点から、ADAS装着車の増え方を確認します。

 では、この感覚のズレはどこから生まれるのでしょうか。ADAS装着車が多いか少ないかという印象が分かれる背景には、入庫車の年式構成があります。多くの一般整備工場では、新車ユーザーの入庫はそれほど多くありません。

 車検は保証期間内の2回目(車齢5年)まではディーラー入庫率が高く、一般修理もディーラー側で完結するケースが中心です。一方、保証期間を過ぎると中古車ユーザーの車両を中心に、一般整備工場への入庫が増えていき、車検入庫は3回目(車齢7年)以降の車両が中心です。

 加えて、新車の平均保有年数は約7.7年と長期化しており、保有台数全体がほぼ横ばいの中で、毎年新車に入れ替わるのは約6%にとどまっています。

 このため一般整備市場は変化が緩やかで気付きにくいという特徴を持ち、新車市場で起きた変化は比較的大きな時間差を伴って一般整備市場の現場に表れてきます。

 国交省がまとめたAEB装着率を見ると、2014年を境に装着率が急速に拡大していることが分かります(図1)。2012年は4.3%、2013年でも14.7% でしたが、2014年には45.4%に達し、その後も6割、7割、8割と急速に拡大しました。

図1 ADAS装着車販売台数

 新車市場では、その後数年を経て、2016~2017年ごろから「ADASが付いていること」が当たり前になり始めたと言えます。背景には、センサー・制御技術の成熟に加え、予防安全装備の装着が進んだことがあります。制度としては、AEBはのちに装着義務化されました。

 ただし、新車市場の変化がそのまま整備現場に反映されるわけではありません。装着率が低かった時代に販売された車が、現在も多く使われているためです。本連載ではここで視点を切り替え、車齢5年以上の車を対象にした「保有ベース装着率」という考え方で整理します(図2)。

図2 車齢5年以上の保有ベースのAEB装着率
図2 車齢5年以上の保有ベースのAEB装着率(イメージ)

 年間の入れ替わりが約6%にとどまるため、新車装着率が変化しても、整備現場では過去世代の影響がしばらく残ります。ただし一定年数を超えると、装着車がまとまって経年車市場に入り、比率が目に見えて変わり始めます。

 この視点で見ると、2016年以降に販売されたADAS装着車が経年化し、一般整備工場にも入り始めていることが分かります。現在の整備現場は、「少しずつ増えている段階」ではなく、「増加が加速し始めた段階」に入っています。

 年間6%しか入れ替わらない市場で変化を実感できるようになったこと自体が、すでに転換点を越え
たサインと言えます(図3)。

図3 ADAS装着率予測(保有車齢5年以上)

 第1回で触れたように、この装着車増加は、作業量だけでなく、外注依存や代車運用にも直結します。特に地方部では、外注納期の遅れが現場負担になるケースも少なくありません。

 たとえば、原因の切り分けが不充分なまま部品を交換してしまい、不具合が解消せず再入庫になるといったケースは、電子制御車では珍しくありません。電子制御整備は、もはや将来の話ではありません。すでに一般整備工場の入庫車両の中に入り始めています。

 重要なのは、すべてを自社で行うことではなく、 「自社対応か外注か」、「どの段階で切り分けるか」といった最初の判断です。この判断を誤ると、不要な分解や再入庫、説明不足によるクレーム、想定外の外注コスト発生といった形で、現場と経営の双方に負担が跳ね返ります。

 基礎知識が必要なのは、高度な修理を行うためではありません。正しく判断し、無駄な作業や説明不足を防ぐためです。

 次回は、その判断の土台となる考え方として、「アナログ回路」と「デジタル回路」の違いを整理します。電子制御車で判断が難しくなる理由を、仕組みの違いから読み解いていきます。

(筆者プロフィール)
佐野和昭
 東北大学 工学部卒業後、トヨタ自動車へ入社。アフターサービス部門に配属され、品質管理からサービス企画・改善、部品のマーケティングまで幅広い分野を担当。その後、自研センターの取締役に就任。新しいアルミ修理技法などの修理技術開発を担当し、機械・工具メーカーなどと意見を交わした。現在は、車体整備をはじめとした整備関連業界において複数社の顧問を務めると同時に、セミナー講師やコンサルタントとしても活躍中。