中東情勢が自動車整備業界に与えた影響 塗料・シンナー・エンジンオイルの需給動向を新旧資料で読み解く
中東情勢の変化を受けて、日本国内の石油製品サプライチェーンに深刻な混乱が生じた。本記事では、経済産業省及び国土交通省が公表した複数時点の資料をもとに、自動車整備事業者に特に関係の深い塗料・シンナー・エンジンオイル(潤滑油)の需給状況を分析する。なお、本記事で参照する資料は以下の通り。
- 経産省提出資料※1(6月26日付):主として4月〜6月22日ごろまでのデータを含む
- 経産省提出資料※2(7月24日前後付):主として4月〜7月21日ごろまでのデータを含む
- 国交省提出資料※1(6月18日付視察概要及び6月3〜12日実施の第1回アンケート結果)
- 国交省提出資料※2(6月30〜7月9日実施の第2回アンケート結果等)
※1 第11回中東情勢に関する関係閣僚会議 ※2 第3回中東情勢に伴う重要物資の
安定的な供給確保のためのタスクフォース 以下、〇〇省資料1or2とする
これらの新旧資料を比較することで、事態がどのように推移したかを明らかにする。
調査概要 誰が、いつ、何を調べたのか
国土交通省は、物資の供給状況を把握するため、複数の調査を実施した。自動車整備分野については、自動車整備・バス・タクシー・トラック事業者(6団体、約20.2万事業者)を対象に、継続的なアンケート調査が行われた。比較対象の期間は5月25日〜6月7日と6月8日〜6月21日(国交省資料1)、さらに6月22日〜7月7日(国交省資料2)。
経済産業省は、相談窓口への問い合わせ件数を7日間移動平均で継続的に集計するとともに、直販スキームの件数や供給量を随時更新している。
シンナー・塗料 直販スキーム導入後、相談件数は急減
旧資料が示す「深刻な目詰まり」の実態
経産省提出資料1によると、シンナー・塗料に関する直近1週間(6/16〜6/22)の相談件数は10件(6/9~6/15は14件)だった。この段階では7日間移動平均のグラフが示す通り、4月末をピークに件数はすでに落ち着いていた。
国交省資料1、6月3〜12日の第1回アンケートでは、自動車整備分野において、5月25日〜6月7日の期間にシンナーに関する供給の不安の声は682件に達しており、現場からは「入手しづらい状況が続いている」、「順次納入されつつあるが、まだ入手しづらい」との声が寄せられているなど、深刻な需給の逼迫が確認された。
直販スキームが転換点に——新資料が示す改善の加速
この状況を打開するため、経産省は6月23日からシンナーメーカーが工務店等へ直接販売する仕組みを開始した。経産省資料1では、開始からわずか数日で30件・1,040リットルの申し込みがあったと記されている。
経産省資料2では、この直販スキームへの申し込みが計51件・1,696リットル(7月20日時点)に拡大し、うち28件・1,120リットルについては注文・随時出荷が進んでいる。また、「トルエン等シンナー原料を最大で例年の1.8倍供給するスキーム」への申請も、資料1時点の12件から14件へと増加した。
相談件数の変化はさらに顕著だ。経産省資料2(7/15〜7/21の直近1週間)におけるシンナー・塗料の相談件数は2件にとどまり、6月中旬から大幅に減少している(↑グラフ1)。
国交省資料2の第2回アンケートでは、自動車整備分野において、シンナーに関する不安の声は682件から98件を経て19件へと97%減を記録しており、直販スキームの効果が数字に表れている(↑グラフ2)。
現場からは「供給に支障がない」との声が寄せられており、定量的な改善と現場の実感が一致している。実際、直販スキームについて、経産省の旧資料掲載分からの約3週間で、シンナー・潤滑油合算で98団体、112社が増加している。
エンジンオイル(潤滑油) 需要家への直接供給で件数が大幅改善
旧資料が示す「偏り・目詰まり」
経産省資料1によると、潤滑油に関する相談件数は直近1週間(6/16〜6/22)で84件(6/9~6/15は116件)と、依然として高い水準にあった。7日間移動平均のグラフを見ると、6月10日の直販スキーム開始直後に相談件数が一時的に増加しているが、これは問い合わせ口の認知が広まったことを反映していると考えられる。
国交省資料1による大臣の現場視察では、自動車整備現場から「エンジンオイルやギヤオイルについて、必要となる量や時期を早めに仕入先へ示す工夫をすることで確保できている」との声がある一方、業界全体としては依然として入手しづらい状況が続いているという声も確認されていた。
また、自動車整備事業者等を対象にしたアンケートでは、5月25日〜6月7日にエンジンオイルに関する不安の声が2,039件に上っていた。
直販スキームの着実な拡大 新資料が示す解決件数の増加
経産省資料1では、製造業・自動車整備業の需要家への供給が直販スキームにより6件成約済み(直販スキーム含め計91件供給が解決)と記されていた。これは6月下旬以降に供給を本格的に進めていく段階だった時期に合致する。
経産省資料2では、直販スキームによる解決件数が34件へと大幅に増加している。一方で旧資料で84件に達していた潤滑油の週間相談件数は、新資料(7/15〜7/21)では14件(6/30~7/6は32件)まで低下し、7日間移動平均も「約2〜3件/日」と落ち着いた水準になっている(↑グラフ3)。
国交省資料2によれば、自動車整備分野のエンジンオイルに関する不安の声は、5月25日〜6月7日の2,039件から6月8日〜21日に517件(75%減)、そして6月22日〜7月7日には334件(最初の計測期間から84%減)へと段階的に減少しており、改善トレンドが継続していることが確認できる(↑グラフ4)。
全体トレンド 相談件数の推移が示す「正常化への道筋」
各品目の相談件数の推移を横断的に見ると、共通したパターンが浮かび上がる。
- シンナー・塗料:6月23日の直販スキーム開始を境に、相談件数が急速に減少(週間10件→2件)
- 潤滑油:6月10日の直販スキーム開始後に一時増加するも、その後着実に低下(週間84件→14件)
- 燃料油:旧資料で週間4件だった相談件数は、新資料では2件へとさらに低下
これらの数字は単なる「減少」ではなく、国が設けた直販スキームという構造的な対策が機能した結果として読み解くことが重要だ。流通の目詰まりを解消するために、メーカーから需要家への直接供給ルートを新設したことで、従来の卸流通に依存せざるを得なかった事業者、特に調達力の弱い一人親方(建築・住宅資材)や小規模整備工場が物資を確保できるようになっている。
また、同時期に進められた原油の代替調達の進展も間接的な背景要因として挙げられる。経産省資料2によれば、7月・8月の原油調達率はいずれも前年平月比で約10割の水準まで回復しており、石油製品全体の供給基盤が安定してきていることが確認できる。
まとめ——改善傾向は確認できるが、引き続き注視が必要
本記事で比較した新旧資料から明らかになった主要なポイントを以下に整理する。
- シンナー・塗料の自動車整備向け不安の声は97%減(682件→19件)と劇的に改善しており、6月23日開始の直販スキームが大きな転換点となっている
- エンジンオイルの不安の声は84%減(2,039件→334件)と大幅に改善している。直販スキームの解決件数も6件から34件へと拡大しており、引き続き供給が進んでいる
- 潤滑油の週間相談件数は84件から14件へと低下し、7日間移動平均では約2〜3件/日と落ち着いた水準に達している
- 一方で、国交省資料2では「前年より納入に時間がかかっている(が調達はできる)」との声が依然として存在しており、供給の完全な正常化には引き続き経過観察が必要
中東情勢に端を発した石油製品の供給混乱は、政府・業界が連携した各種スキームの導入により、段階的な改善が進んでいることは明確だ。特に自動車整備事業者にとっては、シンナーやエンジンオイルの調達環境は大きく改善しつつある。

ただし、各事業者が現場の実態を継続的に把握し、必要に応じて相談窓口や直販スキームを活用することが、安定した事業継続につながると言える。




