みんながわかる! OBD検査 第10回 特定DTCのトラブルシュートは大変?

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MSRweb編集部
みんながわかる! OBD検査 第10回 特定DTCのトラブルシュートは大変?

 前々回で紹介したOBD検査の適合判定方法でも触れたように、もし特定DTCが1つでも検出されると「不適合」と判定されます。この車両を「適合」とするためには必ずそのDTCを解消する必要があります。

 第7回では特定DTCの選定方法を解説しましたが、定義の説明が中心でやや概念的だったため、実際のトラブルシュートをどう進めればよいのかイメージしづらく、DTC発生の原因を究明できるか不安に思われている方も多いのではないでしょうか。

 今回は特定DTCの理解をさらに深めるために、特定DTC解消に向けたトラブルシュートについて考えます。まず、トラブルシュートの難易度を左右する要素を整理し、次に発生頻度の高い特定DTCの傾向や特徴、最後に必要となる基礎知識について解説します。

 トラブルシュートの難易度を見極める上で、修理要領書のフローチャートの大きさや複雑さに注目される方も多いと思います。分岐や点検項目が多いと一見難しそうに見えますが、各点検内容がシンプルであれば、時間こそかかっても難易度自体は高くありません。

 次に重要なのが不具合現象の再現性です。たとえば「過去故障」の断線の場合は接触不良の個所の特定が難しく、関係するハーネスやコネクターを揺すって再現を試みるなど、ノウハウと経験が必要です。ただし、特定DTCはごく一部の例外を除き「現在故障」であるため、再現性の要素は大きな問題にはなりません。

 むしろ難易度を大きく左右するのは、必要とされる基礎知識の深さです。修理要領書に沿って作業できるレベルであれば比較的容易ですが、複雑なシステムでは新型車解説書に記載された構造や作動メカニズムを理解していなければ、正確な診断は困難です。

 さらに、新型車解説書は旧型車からの変更点を中心に記載されているため、前提として装置自体の基本構造や作動原理を理解しておく必要があります。特定DTCの多くはADASやESCといった高度な制御装置に関するものですから、基礎知識の習得が不可欠と言えます。

 国交省が公表しているOBD検査立ち上がりから2025年8月末までのOBD検査の不適合分析によると、特定DTCに起因するものは全体で約2.4%と、当初懸念されたほど高くはありません(表1)。このうちの大半は安全系OBDに分類されます。排ガスOBDは特定DTCの原因はわずか0.01%程度で、前回、対応方法を説明したレディネスコード無が1.1%と一番多くなっています。

表1 OBD検査の不適合の原因(~2025/8/31) 出典:国土交通省

 特定DTCの主な内容は、ABSやESCなど制動装置系やADASセンサーの通信異常や信号途絶です。したがって対象となる部品は表2に挙げたセンサー、アクチュエーター及び関連するハーネス、コネクターだと考えられます。

表2 多発傾向の特定DTCの主な対象部品

 特定DTCへの円滑な対応に向けて学習すべき内容の参考にするために国交省には対象部品や症状などの一歩踏み込んだ情報公開をお願いしたいと思います。

 センサー通信異常のトラブルシュートでは、個々のセンサー構造だけでなく、システム全体の構成や配線ルートの理解が重要になります。現在の多くのセンサー信号はアナログではなくCAN通信によるデジタル信号です。したがって、従来のような電圧・抵抗測定やハーネス点検に加え、デジタル回路特有の基礎知識が求められます。

 もっとも、特定DTCは例外を除き現在故障ですから、オシロスコープでCAN波形を確認する必要があるケースは稀です。その代わりに、スキャンツールのデータモニター機能を活用して通信状態を簡易的に確認方法を理解しておけば大部分は対応できると思います。

 ESCは、継続生産車にも乗用車:2014年10月、軽自動車:2017年2月から装着が義務化されたため、古い経年車を除けばABSからESCへの移行はほぼ完了しています。ABSの機能がESCに包含されていますので、今後はESC関連のトラブルシュートの知識があれば充分です。

 そのためには、まずESCの構成と作動原理を体系的に理解しておくことが欠かせません。アクチュエーター点検では、スキャンツールを使ったソレノイドバルブやポンプモーターのアクティブテストの方法や油圧系整備後のエア抜き方法の理解が必要になります。

 「特定DTCは基本的に『現在故障』であるため、再現性の問題はほとんどない。しかし、ESCやADASなどの高度な制御システムを正しく診断するには、システム構成と作動原理の理解、さらにデジタル回路の点検知識が欠かせない」となります。

 今回は特定DTCのトラブルシュートについて解説しました。今後、本誌と連動して企画中のOBD検査に関するオンラインセミナーでは、具体例を挙げてより分かりやすく解説する予定です。ぜひご期待ください。 (つづく

※MSR2026年1月号掲載

(筆者プロフィール)
佐野和昭
 東北大学 工学部卒業後、トヨタ自動車へ入社。アフターサービス部門に配属され、品質管理からサービス企画・改善、部品のマーケティングまで幅広い分野を担当。その後、自研センターの取締役に就任。新しいアルミ修理技法などの修理技術開発を担当し、機械・工具メーカーなどと意見を交わした。現在は、車体整備をはじめとした整備関連業界において複数社の顧問を務めると同時に、セミナー講師やコンサルタントとしても活躍中。