今回は、電気自動車(EV)や先進安全自動車(ASV)の普及という市場の変化を好機と捉え、ものづくり補助金を活用して設備投資を行ったA社の事例をご紹介します。既存事業の強みと弱みを冷静に分析し、対応領域の拡大と収益構造の転換を図ったA社の取り組みは、多くの整備事業者にとって参考になるはずです。
A社は四国エリアに拠点を置き、中古車販売・車検整備・自動車保険を三位一体で展開する地域密着型の事業者です。創業以来50年にわたって、「購入後の点検・修理から保険の更新まで、車のことはすべて同じ窓口で相談できる」というワンストップ体制を強みに、地域のカーライフを支えてきました。
特に、地方の兼業店では珍しい1級自動車整備士が在籍しており、技術力には定評があります。
しかし、近年の急速な車の電動化や安全装備の高度化は、同社の現場に物理的な限界をもたらしていました。EVや運転支援機能を備えた車両は、大容量バッテリーや多数のセンサー類の搭載により重量が増大し、車体下部の構造も複雑化しています。
A社がこれまで使用してきた従来の2柱式リフトでは、昇降能力や耐荷重の面で充分な安全性を確保しにくく、アームが作業の支障になるなど、作業効率も低下するという課題がありました。
「技術はあるのに、設備が追いつかず断らざるを得ない」。このジレンマは、単なる整備機会の損失だけでなく、車両販売や保険といった他の収益機会までも他社へ流出させてしまうリスクを意味していました 。
そこでA社は、地域内で競合他社が追随する前に、いち早く受け皿となる体制を整える決断をしました。その実行策の核となるのが、ものづくり補助金を活用した「パンタグラフ式整備リフト」2基の導入です。
今回導入するリフトは支柱がないため、車幅の広い車両でも制約を受けにくく、面で車体を安定して支持できるのが特徴です。1基は位置決めの自由度が高い仕様で日常作業を効率化し、もう1基は耐荷重4トンを誇る高スペック仕様で、重量のあるEVや大型車両までフルカバーできる体制を整えるものとなります。
この投資の真の狙いは、単なる設備更新ではありません。整備を起点とした「商流の拡大」にあります。自社で高度な整備が可能になれば、リスクの高い中古EVやASVも自信を持って買い取ることができます。
整備済み車両として販売し、その後のメンテナンスも自社で引き受ける。この「買い取り→整備→販売→管理」の循環モデルを構築することで、単なる下請け整備からの脱却を図ったのです。
A社では設備導入に合わせ、Webでの告知強化や社内トレーニングも推進しています。設備と運用、そして整備と販売を同時にアップグレードするA社の取り組み。「次の需要をどう取り込むか」と悩む経営者にとって、非常に現場感のある、示唆に富んだ事例と言えるのではないでしょうか。
今回で補助金をテーマにした連載は終了となります。次号からは多様化するM&A事情の裏側に迫る内容を予定しています。今後の事業運営のため、ぜひ参考にしてみてください。
※MSR2026年3月号掲載
(筆者プロフィール)
山田健一 株式会社フォーバル
国内大手EC会社にてマーケティングを担当。その後、大手M&Aアドバイザリー会社にて上場企業の経営戦略立案やM&Aアドバイザーとして数多くのM&Aを実行支援。2016年に(株)フォーバルの事業承継支援事業立ち上げに参画。自動車アフターマーケットでの後継者問題の解決、補助金支援に力を入れている。