
点検パックもオイル交換も止まり始めた、整備工場のリアル
「すみません、その予約…お受けできません」
「来週、オイル交換お願いできますか?」
電話の向こうの声は、いつもと変わらない。
だが、受話器を持つ整備工場のスタッフは、一瞬言葉に詰まった。
在庫リストに目を落とす。残っているオイルは、あと数台分。
本来なら「大丈夫ですよ」と答えるだけの簡単なやり取りだ。だが、その日は違った。
「申し訳ありません。現在、オイルの在庫が確保できず……」
その言葉を口にした瞬間、“何かが変わってしまった”と誰もが感じていた。
これは単なる品不足ではない
2026年春。自動車整備の現場では、これまでにない異変が広がっている。
- オイルが入ってこない
- 価格が決まらない
- 作業が予定通り進まない
一見すると「一時的な供給不足」に見えるかもしれない。しかし実態は違う。
これは“エンジンオイルショック”とも言える構造的な問題だ。
見えないところで、すでに崩れていた
今回の問題は、ある日突然起きたわけではない。
中東では緊張が高まり、エンジンオイルの原料となるベースオイルの供給が止まった。
同じ頃、東南アジアの工場ではサイバー攻撃が発生し、オイル性能を左右する“添加剤”の生産が停止。
さらにその裏で、世界はすでに次の時代へと舵を切っていた。
EV化、脱炭素。
その流れの中で、オイルの生産量は徐々に縮小されていた。
つまり今回の危機は、
- 作れない
- 届かない
- 増やせない
という、三つの崩壊が同時に起きた結果だった。

点検パックという“約束”が揺らぎ始める
あるディーラーでは、こんなやり取りが増えている。
「点検パックに入っているので、今回もオイル交換お願いします」
当然の依頼だ。数年前に契約した内容には、確かに含まれている。しかし現場の返答はこうだ。
「申し訳ありません。現在、指定オイルの入荷が未定でして…」
結果として、
- 交換時期の延期
- 上位オイルへの変更(差額負担)
- 次回への繰り越し
といった対応が取られる。つまり“契約していても、提供できない”状況が起きている。
点検パックは“安心”の象徴だったはずだ。その前提が、静かに揺らぎ始めている。
「いつでもできる」が消えたオイル交換
オイル交換は、もっとも身近なメンテナンスだった。思い立ったときに行けばいい。待てばその日のうちに終わる。そんな“当たり前”が、崩れている。
- 予約が取れない
- オイルが選べない
- 価格が上がる
さらに現場では、こんな判断も始まっている。
- 「この在庫は、常連のお客様に回そう」
- 「法人車両を優先しよう」
公平であるべきサービスが、“選別”を伴うものに変わり始めている。
最も深刻なのは、物流を支える車たち
影響が大きいのは、一般車だけではない。むしろ深刻なのは、ディーゼル車だ。トラック、バス、建設機械。
日本の物流とインフラを支える存在。その多くが必要とするオイルが、いま不足している。
これは単なる整備の問題ではなく“社会の動きそのもの”に関わる問題だ。

整備工場の現場は“有事”に入った
ある整備工場では、在庫がこうなっている。
- 通常:1ヶ月分
- 現在:1週間分
追加発注はできない。価格も決まらない。
「来週どうするか、正直見えていない」
この言葉は決して大げさではない。
- 新規客を断る
- 作業の優先順位を決める
- 利益を削ってでも対応する
これはもう日常ではなく“有事対応”なのだ。
価格は静かに、しかし確実に上がっている
数字もすでに動いている。
- オイル:20〜35%上昇
- 工賃:30%上昇
そして現場の本音はこうだ。
「これでもまだ足りないかもしれない」
価格は今後も不安定なまま推移する可能性が高い。
カーオーナーも変わり始めている
この変化は、ユーザーにも広がっている。
- 早めに予約する
- オイルを自分で確保する
- DIYで交換する
しかしその裏で、
- 廃油処理の問題
- 作業ミスによる故障
- 買い占めによる供給悪化
といった新たなリスクも生まれている。
“代用”という選択の落とし穴
オイルがないなら、別のもので代用する。
一見合理的だが、ここには大きな落とし穴がある。
例えば、
- 粘度変更(0W-20 → 5W-30)
→ 条件付きで可能
しかし、
- ディーゼル規格の代用(DH-2 → DL-1)
→ 原則NG
最悪の場合、エンジン破損(数百万円)という結果になる。

この状況は、いつ終わるのか
現実的な見通しはこうだ。
- 短期:混乱は続く
- 中期:供給は戻るが価格は戻らない
- 長期:整備の形が変わる
つまり、「元通り」にはならない可能性が高いのである。
これは“終わり”ではなく“始まり”
今回のオイル危機は、単なるトラブルではない。
それは、整備業界の転換点を示している。
- オイル交換で利益を出す時代
- 作業量で勝負する時代
それらは、終わりに近づいている。これから求められるのは、車両状態を管理し、最適な提案をする力なのだ。
それでも、現場は止まらない
「できることをやるしかないですよ」
ある整備士はそう言って、次の作業に向かう。
限られたオイル。
読めない価格。
増える説明責任。
それでも、車を止めないために、現場は今日も動き続けている。
まとめ
2026年、何が変わったのか
- 点検パックは“絶対”ではなくなった
- オイル交換は“いつでもできる”ものではなくなった
- 整備工場は“有事対応”に入った
そして何より、「当たり前」が通用しなくなった。
最後に
「これまで通り」をやめることから始まる
この状況に、特効薬はありません。オイルはすぐに潤沢には戻りません。価格も、元の水準には戻らない可能性が高いのです。だからこそ必要なのは、“これまで通り”という前提を手放すことなのです。
整備工場であれば、
- 価格を守るのではなく「説明」を強化する
- 作業をこなすのではなく「優先順位」を決める
- オイル交換ではなく「車両管理」で価値を出す
カーオーナーであれば、
- 必要なタイミングで早めに動く
- “なんとなく交換”をやめる
- 信頼できる工場と関係を築く
今回のオイル供給問題は、単なるトラブルではありません。整備のあり方そのものを見直すきっかけです。完璧な対応はできなくてもいい。
ただ一つ言えるのは、「何も変えないこと」が、最もリスクになる時代に入ったということです。
「オイルが足りない時代ではなく、“判断力が問われる時代”が始まっているのです。」

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