どこに行っても直らなかった車の駆け込み寺 人口3万人弱の黒石市から自動車整備の「対価」を問い直す 須藤ヂャイアント商会[青森県黒石市]

  • #MSR2026年7月号掲載
ライター写真
泉山 大(プロジェクトD)
どこに行っても直らなかった車の駆け込み寺 人口3万人弱の黒石市から自動車整備の「対価」を問い直す 須藤ヂャイアント商会[青森県黒石市]

 過疎化が進む小さな町で入庫の予約をとることも困難な自動車整備工場がある。よそのディーラー、整備工場で手に負えなかった故障を「ひと手間を惜しまない」診断で整備する自動車整備の最後の砦、須藤ヂャイアント商会。

 同社の社長であり、唯一の整備士である須藤正樹社長は試行錯誤と切磋琢磨を繰り返し、自動車整備業界屈指の研究会、「メカトロクラブみちのく」の入会による、様々な人との出会いで至高の故障診断フォーマットを構築した。「整備士が輝くために」(須藤社長)を常に考え続けてきた須藤社長の肉声に迫る。

【工場概要】社長 :須藤 正樹  住所 :青森県黒石市追子野木1-67-4 創業 :1953年

須藤ヂャイアント商会の整備作業場内観
須藤ヂャイアント商会の整備作業場内観。特定整備認証は2020年4月1日に真っ先に変更

 人口2万9,000人の町、本州最北となる津軽の黒石市に、ユーザーから、そして自動車整備業界から頼りにされる一級整備士がいる。須藤ヂャイアント商会、須藤正樹社長である。

 生産効率が重視される現代の自動車整備にあって「ひと手間を惜しまない」を座右の銘とし、ディーラーなどがさじを投げた故障の駆け込み寺、最後の砦だ。

 自転車業からスタートし、二輪車、オート三輪、そして四輪へと、日本のモータリゼーションとともに歩んできた須藤ヂャイアント商会。須藤社長は同社の三代目である。

現在はひとり親方で切り盛りする須藤正樹社
現在はひとり親方で切り盛りする須藤正樹社長

 須藤社長は述懐する。「かつての当社は車検に依存した典型的な整備工場だった。日々忙しいのに利益は少なく、顧客から診断料金をいただくにはどうすればいいかを考え、試行錯誤を繰り返してきた。とにかく車検整備依存の体質を変えなければ先がないとの危機感があった」。

 当時、整備業界は車検の価格競争真っ盛り。須藤社長は技術の安売りに逆行し、模索を続ける。辿り着いたヒントは故障診断だった。

 「医師が行う患者の診断プロセスは問診・診察・検査があり、それぞれの医療費を患者が支払っている。ところが、自動車整備には診断に対する対価がない。ある程度の時間をかけて行う故障診断、見積り作成で料金をいただかないことに疑問を感じていた」(須藤社長)。

 1990年代も終わりのころ、まだスキャンツールという一般名詞すら浸透していなかった時代に須藤社長はいち早くスキャンツールを購入。オリジナルの診断票を作成して診断料金をいただくことを始めた。

診断レポートサンプル。須藤社長による書き込み多し
診断レポートサンプル。須藤社長による書き込み多し

 当時設定した診断料金は3,000円。周囲の整備工場はもちろん、当時の整備業界でも珍しかった料金の設定は顧客からの理解も得られにくかったという。試行錯誤を繰り返す中、診断をユーザーに納得いただくには、診断の「見える化」が必要だと気付いた。

DLCに差し込むバッテリーのバックアップ。ライトの点灯で通電状態が分かる仕組み
DLCに差し込むバッテリーのバックアップ。ライトの点灯で通電状態が分かる仕組み

 「メニューと作業の両方の見える化を進めた」と須藤社長。診断に関しては、スキャンツールによる診断レポート、オシロスコープ、マルチメーターなど各種テスターによる信号やデータ、作業前後の写真付きのレポートなどを用いて徹底的に「見える化」した診断データを提示する。

負圧、電圧、電流、抵抗、温度などを総合的に測定システムアナライザー
負圧、電圧、電流、抵抗、温度などを総合的に測定システムアナライザー

 中でも異音という視覚で提示することが難しい事例も車両用のサウンドスコープとオシロスコープで異音を波形として「見える化」を実現した。

オシロスコープと連携可能とするノックセンサー
オシロスコープと連携可能とするノックセンサー

 実際、入庫したトヨタ・ヴィッツのエンジン異音の発生源特定に活躍。オルタネーターか、それともウォーターポンプか、判断が難しい異音をサウンドスコープと波形の確認で故障探求へとつなげた。「ひと手間を惜しまない」診断で誤診を防いだ1例である。

サウンドスコープのマイク部分にホースを接続し、ピンポイントで異音を聴くことが可能。オシロスコープの接続で異音を見える化
サウンドスコープのマイク部分にホースを接続し、ピンポイントで異音を聴くことが可能。オシロスコープの接続で異音を見える化

 こうした取り組みの推進の背景には、運命的な出会いがあった。自動車整備業界屈指の研究集団「メカトロクラブみちのく」への入会である。「熱心な諸先輩方から整備の技術や考え方、人として多くのことを教わった。こんにちの自分の礎となっている」と先輩方への感謝を口にする。

 診断作業のプロセスは実車確認、ロードテスト、点検、測定、診断となり、丹念に入念に車両と向き合う。診断料金は国産車が3万8,000円、輸入車が4万8,000円を上限に設定。測定の途中で故障原因が判明した場合は、そこまでの作業料金を適用する。

 診断後に見積りを提示。ここで依頼主にその後の修理の可否を尋ねてからの作業となる。これが須藤社長の故障診断フォーマットだ。

 このような徹底した故障診断を行っていくうち、「車に思い入れのある顧客が増え、輸入車の入庫が多くなった」と須藤社長。現在の入庫の7割は輸入車で占められている。また、他県からの入庫も多く、函館からフェリーで来店するケースもあるという。どこに行っても直らなかった車の駆け込み寺と呼ばれるゆえんだ。

 入庫は完全予約制、支払いは車両引き渡し時の一括支払いで、納車引き取り、売り掛けはほぼなくなった。 「自動車整備は医師と同様、実施したことに対して対価をいただくことは当然のこと。その仕事が整備士の矜持となり、整備士の賃金となり、地位向上へとつながる」(須藤社長)。

 須藤ヂャイアント商会は日刊自動車新聞社主催の整備事業者アワード2025で「専門性強化賞」を受賞。さらに須藤社長は整備士として2018年に青森県の「卓越技能者」(自動車整備業界初)、そして昨年は自動車関係功労者として国土交通大臣より、それぞれ表彰された。

 現在58歳の須藤社長は、「これからの自動車整備はICTの知識なども必要となり、ますます多くの知識が求められる。仲間とネットワークを作り、情報を取り入れながら勉強を続けていくことが重要だ。私が蓄積してきたノウハウや経験について、熱意のある人には惜しみなく提供したい」と若い整備士にエールを送る。