車の電子制御化に伴い、整備事業者には厳格な法令遵守が求められている。本特集では経営リスクを回避し、事業を存続させるためのコンプライアンス要件と現場対応について考察する。(構成:木下慶亮)
電子制御化時代における法定検査とコンプライアンスの重要性
国土交通省は自動車の電子化・高度化に伴う安全確保のため、法定検査にスキャンツールを用いたOBD 検査を2024 年10月より本格運用している。自動ブレーキや車線維持支援機能など、先進運転支援システム(ADAS)の普及により、従来の整備だけでは車両の安全性の担保が困難になったことが背景
にある。
本特集では、道路運送車両法(以下、車両法)だけでなく道路交通法(以下、道交法)の視点も交えながら、自動車整備事業者が遵守すべきコンプライアンス要件を整理し、現場の同要件に関するアドバイスを提案したい。
車両法と道交法
まず、自動車の運行と整備を規定するものとして、管轄と目的が異なる2つの法律が存在することを正しく理解することがコンプライアンスの第1歩である。
車両法は、国土交通省が管轄し、自動車が公道を安全に走行するための保安基準への適合性確保及び所有権などの公証を目的とする。具体的には、自動車が公道を安全に走るための基準を満たしているか、誰がその車の持ち主であるかを国が確認及び登録する制度であり、点検整備や認証・指定制度を包括して規定している。
対して道交法は、警察庁が管轄し、歩行者や運転者を対象とした道路における危険防止や交通
の安全と円滑化を図ることを目的としている。
これらの法令において注視すべきは、法令の運用上の「責任の所在」にある。
道交法では、基準に適合していない車両を運転することを問題視し、これは運転者の責任範囲となる(道路交通法第62条)。一方車両法では、車両が保安基準に適合している状態であるかどうかが要ではあるものの、適合状態を維持する大原則の責任は、整備事業者ではなく自動車の使用者(多くの場合は所有者)に帰属する(道路運送車両法 第54条)。
つまり、なじみの整備事業者に車検や定期点検を依頼したとしても、法律上の「保安基準に適合させる義務」そのものが整備事業者に丸投げされるわけではなく、あくまでカーオーナーが自身の義務を果たすために、専門家である事業者に実作業を委託したという構造になる。
では整備事業者が責任を負うケースはないのかというと、不適合状態の原因に起因する事故が起きた場合、点検・整備を実施した事業者が民事、行政上の責任を問われうる。
OBD検査時のコンプライアンスの重要性
OBD 検査については、運用状況の確認や見直しなどを検討する「OBD 検査モニタリング会合」を国土交通省が設置している。2026年3月9日に開催した第6回の報告資料(図1)によれば、2024年10月の制度開始から2026年1月までの累計検査台数は70万4,082台。
このうち不適合に1度でもなった車両は2万3,799台あり、全体の不適合率は3.4%であったと公表されている(表1)。2025年10~12月期の不適合率は2.5%、直近の2026年1月は2.1%と段階的な改善傾向を示している。
この結果については、人気車種の初回車検の時期との重複もあったが、おおむね順調な運用と報告されている。
OBD 検査の本格運用は単なる車検の作業項目の追加ではなく、事業の存続に関わる重大な法的責任の再定義を意味する。モニタリング会合で示された不適合率の低下は、現場の習熟を示す一方で、不適合車両を迅速に処理しなければならないという現場への圧力が定常化する危険性も内包している。
特に上位顧客層を抱えるディーラーでは、待ち時間を減らすために不正な手順を踏むリスクが懸念されている。
運用から1 年半が経過し、コンプライアンス違反の取り締まりが厳しくなるという声も聞く。事業者は、コンプライアンス違反が指定取消や事業停止という経営上の死に直結することを全従業員に周知徹底し、目先の時間短縮のために法令を逸脱する行為を組織的に排除する体制を構築しなければならない。
コンプライアンスの欠如は、最終的に事業免許の喪失という代償を払うことにつながる。
→特集②に続く

