特集⑥ OBD検査の入庫が増大する前に探求心を取り戻し、ITスキルを磨く

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泉山 大(プロジェクトD)
特集⑥ OBD検査の入庫が増大する前に探求心を取り戻し、ITスキルを磨く

 元整備工場経営者で、現在は自動車整備コンサルタントとしてトライフォースの代表取締役を務める長屋勝利氏は、近年の整備業界に警鐘を鳴らし続けてきた。自動車と社会の高度化・デジタル化といううねりの中で、脆弱になる自動車整備のコンプライアンスについて渾身の提言を突きつける。

 「整備士は燃料噴射がかつてのキャブレターから電子制御に替わるタイミングで、急激に学ぶことをやめた。その後はもう我流による勝手な解釈の経営がまかり通るようになった」と長屋氏は言う。安価な車検や値引き合戦に終始し、自分の技術を売らず、「客の神様化」が進んだと指摘。

 その結果、「自動車整備のコンプライアンスは脆弱になった」というのが、長年業界を俯瞰してウォッチングしてきた長屋氏の見立てである。また、整備工場経営者が学びをやめた代償として、長屋氏はITリテラシーの欠如も挙げる。中でもIDとパスワード管理は「惨憺たる状況」と言う。

 「たとえば、OBD検査で使用するPCにID・パスワードを記載したテプラを貼り付けている整備工場をよく見かける。監査が来たらアウト。今後OBD検査の適正な運用にあたって、専門官はIDとパスワードの管理について重点的にチェックする」と警鐘を鳴らす。

 また、特定DTC照会アプリのIPアドレスのチェックや同じ検査員が何日間も休まずログインしているケースなど、OBD検査の運用を巡って、今後の整備業界のITリテラシーの欠如が白日の下に晒される可能性を示唆する。

 特定整備対象車と非対象車が混在する現代にあって、いかにコンプライアンス意識を保つかは、フロント業務の大きな課題の1つ。

 長屋氏は「OBDⅡカプラーが装備されている車は特定整備対象車と判断するべき」と呼びかけている。仮にその入庫車が対象であろうとなかろうと、スキャンツールで診断し整備した後、「それを特定整備記録簿に記載することが、特定整備事業者の務めだ」と説く。

 もしそれができていないのであれば、その整備事業者は、診断料をいただく機会損失も招いていることになる。学び続ける事業者とそうでない事業者の決定的な格差はそこに表れるわけだ。

 これは中古車ビジネスのシーンでも同様である。「中古車の商品価値として外観や内装の原状回復は当たり前。その上で、ADAS関連装置についても問題がないことを示すのが重要。OBD確認の実施が車の価値を上げることを中古車業界はアピールするべき」と、特定整備が中古車流通に影響を与えている点についても言及する。

 OBDⅡカプラーに外部装置が付いているケースは少なくなったが、直近で長屋氏が経験した事例は電装品の多様化などの影響で、故障探求が難しくなる可能性をはらんでいるという。

 たとえばOBDⅡカプラーの裏側から分配して配線し、電装品を装着するケースである。主要な灯火に社外品のLEDを交換している車両にも「注意が必要」と訴える。いずれも「CAN通信不良」のDTCが検出される可能性がある。

 とりわけ灯火についての事例は、社外品などの取り付け例が多く、保安基準に対する課題を負ってきた。カーオーナーと直接接触する機会が多い整備士はアドバイスする立場にあり、そうした部品交換のリスクについての知識が不可欠だ。

 自動車整備の現状については、「今、業界は分岐点。自動車の進化は早いが学び続けることが重要」と語る。その上で「将来的に点検整備記録簿が電子化されることを視野に入れ、ITスキルを上げること、顧客の選別を行うこと」を優先順位に挙げた。

 現在、OBD検査は初回車検のみの入庫だが、今夏以降には2回目のOBD検査が始まる。長屋氏は「OBD検査が本番を迎えるこれからが本当の勝負。できない事業者は退場を迫られるだろう」と結んだ。