改正保険業法「比較推奨販売」の余波 現場の声から見えてくる課題

  • #改正保険業法
  • #比較推奨販売
ライター写真
八木 正純
改正保険業法「比較推奨販売」の余波 現場の声から見えてくる課題

改正保険業法が施行された6月1日以降も、いまだ持ち越されている課題が「比較推奨販売」の指針である。金融庁は2025年12月に監督指針案を発表し、商品提案においては保険代理店の都合で保険会社や商品を推奨しないよう留意を求めた。

「比較推奨販売における推奨理由の明示」にある「イロハ」方式のうち、「ハ」方式廃止の方針を打ち出したのである。

ところが、その後行った2度にわたるパブリックコメントで、制度変更は代理店の保険募集の現場実務に多大な影響を与えること、また、指針案の曖昧性を指摘する声があがったことから、「比較推奨販売」の方針については異例ともいえる、保留・持ち越しとなった。→関連記事はこちら

そのパブリックコメントに寄せられた意見の中には、現場の実態をリアルに伝えるものが少なくない。今回は、自動車販売の現場や規模の大きい代理店、そして顧客対応の最前線で起きている変化をパブコメの声を通じて見ていく。

「比較推奨販売に力を入れるほど、お客様の選択肢は広がり逆にお客様は困ると思います。実際にオールメーカーを扱う自動車販売店は、オールメーカーの説明や見積もりを出さないと思います」

これは自動車販売営業の責任者兼、保険担当者として寄せられたパブリックコメントの内容である(No.163)。

募集業務を「遮断」してしまえば、自動車販売時に保険の話すらできなくなる、という実務感覚がにじみ出ている。「イ」方式のように乗り合いするすべての保険会社の見積書を作成し比較提示するというオペレーションが、現場でいかに非現実的に映るかを端的に示す声だ。

一方、規模の大きい代理店においても、対応への苦悩は深まっている。

「比較推奨販売については、ハ方式からロ方式への移行を考えていますが、将来的には専属代理店になることも検討せざるを得ないと考えます」

こう明かしたのは、体制整備を進めている代理店からの意見である(No.203)。現場(第一線)・保険部(第二線)の態勢整備は進めているものの、内部監査部門(第三線)の人材確保が課題となっており、改正対応のコストが保険収益を圧迫するという構図が浮かび上がる。

「ロ」方式への移行は、今後も乗り合いを続けていく代理店にとっては現実的な選択肢の1つだ。しかし、今の段階では専属への転換という後退も、やむなしという判断が出てきている。規模にかかわらず、改正への対応負担が業態の見直しを迫る事態にまで発展しているのである。

比較推奨販売の指針見直しが与える影響は、代理店だけにとどまらない。

「すでに契約をいただいているお客様が放り出され難民のようになっている気がします」

こう訴えるのは、業法改正後の実態を伝えるパブリックコメント(No.174)だ。損保会社が便宜供与に過敏になり代理店訪問や電話を控えるようになった結果、代理店廃業や乗合保険会社の縮小が相次いでいる。特に生命保険は長期契約が多いため、乗合をやめた保険会社の既契約者が保険会社直扱となるか、他代理店へ移管されるケースが発生しているという。

「お客様は自身で加入した代理店で面倒を見てほしいと思っているはずです。直扱いとなったお客様のアフターフォロー(契約保全)が保険会社にできるのでしょうか?」

顧客本位の業務運営を旗印に掲げながら、「代理店のいないお客様を多く生んでしまうのはお客様本位ではない」という指摘は重い。制度の趣旨と現実の乖離を象徴するコメントといえる。

運用面でも、制度の実効性に疑問を呈する声がある。

特定保険募集人向けの事業報告書において、「保険会社等との取引等が比較推奨販売に与える影響の確認・検証方法」の着眼点が「記載上の留意点」に明示されていない点を問題視したコメントがある(No.171)。「このままだと代理店によって当該項目の記載の粒度に相当のバラツキが生じるのではないか」というものだ。

他の項目では「保険募集の業務に係る内部通報の把握から処理完了までの流れを網羅的に記載すること」と明記されているのに対し、比較推奨販売に関わる確認・検証方法については記載基準が不明瞭なままとなっている。

「誰が何をいつどの程度の頻度で確認・検証することとしているか、記載させるように明示したほうがよいのではないか」という提言は、制度設計の精度を問うものだ。

こうした状況の中、現場対応で一歩先を行く事業者も出てきている。

自動車保険獲得コンサルタントのミスター保険こと高島健太氏は、「『ロ』方式による商談のロールプレイングをすでにスタートしているが、商談時間は従来と比べて8分程度長くなった。早い段階から準備しながら、時間をかけて現場に落とし込んでいくことが重要」と関連記事でも語っている。

比較推奨販売の指針が出てから対策を講じるのではなく、早めの備えを行うよう呼びかけている。

「ロ」方式においても顧客の意向把握の精度が求められ、その聞き取りが曖昧であれば募集人のミスリードを招く可能性もある。商談プロセスの記録・保存(証跡)を適切に管理するためのシステム導入を進める代理店も増えており、業務フローの見直しと並行した準備が求められる。

金融庁による比較推奨販売のパブリックコメントの結果などを受けた新指針・ルールは今秋にも示されると見られている。施行規則の改正に加え、システムの改修、保険募集人の研修期間などを考慮すると、実際の指針の適用には一定期間が設けられる可能性が高い。

現場からの声は、制度の整備と実務の乖離を繰り返し訴えている。自動車販売の現場では「比較説明がかえって顧客の混乱を招く」という声があり、規模の大きい代理店では「専属転換もやむなし」という現実的な判断が生まれ、既契約者は代理店不在の状況に追い込まれようとしている。

どの程度の時間が猶予されるかは、現時点では分からないが、あらゆることを想定した準備は怠ることがないように体制づくりを進めていくことが望ましい。指針の確定を待つのではなく、今できる準備を着実に積み上げていくことが、代理店として顧客に向き合い続けるための道筋となるはずだ。