多角的な法令遵守
道交法と整備事業者の関係
整備完了後、車両が公道に復帰した 整備完了後、車両が公道に復帰した際に関わってくるのが道交法である。整備事業者が不適切な整備プロセスを経ることは、運転者の道交法違反を誘発するリスクを内包しうる。道交法では、OBD検査不適合の(または故障した)車両を道路で走らせることを規制している(道交法 第62条)。
整備事業者が、OBD検査において警告灯の点灯や特定DTCの存在といった不適合状態であることを認識していながら、根本的な整備を行わずに「とりあえず消しておいたから」と顧客に引き渡し、公道を走らせる行為は、この整備不良車両の運行を黙認・助長したとみなされるリスクが存在する。
自動運転技術や高度運転支援システム(ADAS)の異常放置に対しては、管轄省庁も厳しい姿勢を示しており、システム異常を放置して納車し、それが原因で交通事故が発生した場合、整備事業者は重い責任が問われることになる。
Windows版への対応
使用する検査用機器の不具合が意図せぬ法令違反を引き起こす場合もある。現場で使用される「特定DTC照会アプリ」において、Android版を利用した場合に一部の車両のOBDコネクタ仕様との互換性の問題から通信エラーが表示され、正常にOBD検査・確認が実施できない事象が報告されている。
国土交通省及び自動車技術総合機構は、該当車両に対してはWindows版の利用を推奨する通達案を出している。このような仕様の差異を現場が正確に把握せず「通信エラーが出たから対象外だろう」と自己判断して検査を省略して納車することは、重大なコンプライアンス違反へと発展する。
整備実務を取り巻く法規制はさらに多岐にわたる。海賊版診断ソフトや、リバースエンジニアリングされた不正ツールを使用してECUにアクセスする行為。また消費者保護の観点から、OBD検査の過程で発覚した追加整備や高額なセンサー費用について、事前にインフォームド・コンセントを行わず強引に作業を進めることは指導の対象となる。
自社を守るためにも
法令違反に関するリスクは、整備士の「この程度なら走っても問題ないだろう」という技術的過信から生じることも少なくない。ADASなどの電子制御装置においては、目視では分からないセンサーの異常が致命的な事故の引き金となる。
事業者は、最新の技術情報を常に取得し、現場の機器を適正な状態に維持する責任を負っている。通信エラーを安易に見過ごさず、公式の代替手段に切り替えるなど確実な判定を下すルールをマニュアル化しなければならない。
また、顧客への事前説明を徹底し、追加費用が発生した場合の対応フローを明確化することも、法的なトラブルから自社を守ることにつながるのである。
特定整備の再確認を
現場で起こりうるのは、OBD 検査と電子制御装置整備(特定整備)という2つの対象車種の混同である。国土交通省は自動車の安全性確保のためこれらを並行して運用しているが、対象の要件と法的位置付けは根本的に異なる。
電子制御装置整備は、衝突被害軽減ブレーキなどに用いられるカメラ及びレーダーの修理・調整(エイミング)に関する作業を指す。ただし、同ブレーキ搭載車であってもすべて対象ではなく、基準適用前の古い年式の車両などは対象外となる場合がある。
そのため、電子制御装置整備を適正に実施するには、特定整備認証の取得が不可欠である。車両法第78条では、原則として認証範囲外での作業を厳禁している。
「電子制御装置整備」の認証を持たない事業者が、バンパーやフロントガラスの脱着や交換に伴うカメラ・レーダーの取り外し及びセンサー類の校正を行うこと、または再委託のプロセスに不備があることは無認証作業として明確な法律違反となる。
また事業者は、自動車ごとの整備情報及びエイミング機器を使用し、これらの体制が整った上で適切に点検整備を実施することが義務付けられている。ADAS関連部品を脱着・交換した際に、法令で定められたエイミング作業を省略することや、不適切な環境で実施し、適合証を発行する行為は禁じられている。
さらに、屋外でのエイミング作業時には、場所(敷地内)及び天候を特定整備記録簿に記載することが通達で求められている。エイミング結果の数値を改ざんする、または実施していないのに「完了」と記録簿に虚偽記載する行為は、指定取消の最有力事由として処分される。
OBD検査と特定整備の関係性
対してOBD検査では、継続検査(車検)時においてスキャンツールを用いて行う電子的故障診断の制度であり、主に2021年10月以降に生産された新型車が対象となる。この制度的差異による現場の誤認を防ぐため、OBD検査モニタリング会合においても、車検証の備考欄の記載を統一、強調表示する方針が示された。
登録車は2026年4月より、車検証備考欄にスミ付きカッコを用いて【OBD検査対象】と明記される改修が行われ、検査員が一目で判別できるようシステム的なサポートが拡充されている。
OBD 検査対象と特定整備対象の混同は「車検証に記載がないからエイミングも不要だろう」という誤りを引き起こしかねない。2026年4月から導入されたOBD 検査対象の強調表示は、対象車両の見落としを防ぎうるが、同時に「特定整備は古い車両にも適用されうる」という原則を再認識する契機としなければならない。
自社が取得している認証の範囲を正確に把握し、フロントガラス交換などの外注作業においても、委託先が適切な特定整備認証を有し、作業内容を正しく記録しているかを厳格に管理する責任がある。
また、エイミング作業の環境要件(床の水平度や天候記録など)を満たさないまま作業を行うことは、結果的に保安基準不適合車両を生み出しかねないため、設備投資を含めた正しい作業環境の整備、維持にも注力したい。
→特集④に続く

