自動車整備とは何か。整備士が行うべき診断とは何かを追求してきた男がいる。本州最北にある小さな町の自動車整備の巨人、須藤正樹社長(須藤ヂャイアント商会)、その人である。人の命を預かる車に対して「ひと手間を惜しまない」整備をモットーとし、常に最善の診断と整備を探求する、まさに診断の匠である。その仕事は自動車整備の矜持とは何かをも、静かに伝えている。
今回は須藤社長が大切にしている車両診断理論を凝縮した整備実例を須藤社長が発信するブログ記事より再構成した。
エンジン警告灯点灯により入庫したアウディ・TT
同社に持ち込まれたのは、エンジン警告灯が点灯するアウディ・TT(8J)。ユーザー自身がコードリーダーを使用したところ、「P0171:混合気リーン」が検出されたとのこと。
須藤社長が問診を行った結果、エンジン不調はないが、以前も同じ症状で、他社に入庫した経緯があるということが判明。その際、オイルセパレーター、インテークマニホールドにつながるホースなどを交換したという。
また、キャニスター関係のDTCも記録されていたため、キャニスター、キャニスターパージバルブなども交換したとのこと。ところが、その後エンジン警告灯が再点灯したため、同社へ入庫してきた。「確かに、エンジン不調はないものの、アイドリングは若干ラフな感じ」(須藤社長)。
エア吸い込み個所の特定
スキャンツールによるシステムチェックを実施し、エンジンECUに5つのDTCを確認。ユーザー自身がコードリーダーで拾ったP0171は検出されなかったが、P2187、P2279がストアされていた。「これらはP0171と同じような内容と考えてよいと思う」(須藤社長、以下同)。
「どこからかエアを吸っていると思われるので、まずはエアを吸っている個所の特定を実施。エンジン不調が酷くないことから、エアマスメーターからインテークマニホールドの間は考えにくい。もし、その間でエアを吸うと、酷いエンジン不調を伴うか、フューエルトリムが大きくズレてしまう。なので、前回他社で交換したというこの個所は間違いだと思われる」。
「この修理もいただけない。バキュームホースを折り返すと劣化した時にエア吸いの原因となる」。キャップ自体は数百円のため、同社にて純正品に交換。
ライブデータで診断結果を見える化する
結果的に、今回のエンジン警告灯の原因はバキュームポンプからマスターバッグへつながるパイプの亀裂だったことが判明。
取り付けられた状態だと分かりにくいが、外してみるとパイプの根元がパックリ割れているのがはっきりと分かる。
「この個所だったらエアを吸ってもバキュームポンプを経由するのでエンジンの調子にはそこまで影響は出ない」。ただ、ライブデータを解析すると、その違いは歴然。
左が修理前、右が修理後で、通常走行から停車してアイドリング状態になった時の同じ項目のデータである。修理前はラムダ制御 (青) が小さい上下変動をしながら大きく波打つ一方で、修理後の波形は一見大きく上下しているように見えるものの、だいたい4%くらいの上下変動となった。ライブデータで、修理後の改善「見える化」を図った。
ミスファイヤーのDTCの原因と部品交換について
オイルセパレーターからインテークマニホールドに繋がる部分のインテークマニホールド側にエンジンオイルが溜っていた。

「ここは4番シリンダーへの吸気パイプ付近なので、4番シリンダーはエンジンオイルを吸い込んでミスファイヤーしたと思われる。オイルセパレーターは他社で交換したはずだが、オイル漏れが生じていた」。
「んっ?」と思った須藤社長。同時に交換されたであろうキャニスターを見ると……純正品やOEM製品では見かけることのない文字を発見。
最近はネットでいろんなものが買える良い時代になったが、値段だけでなく物の良し悪しの見極めも重要だ。同社が部品持ち込みでの作業を原則お断りしている理由はここにある。
今回、オイルセパレーターとガスケットも新品OEM品に交換した。もちろん、顧客には今後キャニスターやキャニスターパージバルブのトラブルの可能性は否めないことも説明した。
かつての燃料補正と今の違い
「整備士の方は昔、ショートのフューエルトリムが閾値を超えるとロングにカウントして、ショートはリセットされると学んだかと思う。しかしながら、最近の制御ではショートもロングも各々別々に当たり前のように変化する。各々のロジックが違うかどうかは分からないが、ロングがあまり動かない以前の制御と現在の状況は確実に異なってきている」と須藤社長。
「現在のショートとロングの違いはキーOFFでリセットされるかメモリーされるかくらいではないだろうか? それだけ制御が複雑かつ高度になっている。我々整備士も常に研鑽を積みバージョンアップしていかなければついていけなくなってきている。目先のコストにひかれて安価なものを買うと、結局二度手間三度手間になって、逆に高くついてしまうことが多々見受けられる」。
自動車整備のプロとして
須藤社長の信条は、「目に見える症状だけで判断しない」、「数値やデータを重視する」、「ひと手間を惜しまない」、「安易な部品交換を行わない」、そして「プロとしての矜持を忘れない」ことであり、これらの積み重ねが、多くのユーザーからの評価と信頼を獲得してきた。それは自動車整備業界、ひいては自動車整備士へのメッセージでもある。
また、須藤社長は自身を成長させてくれたメカトロクラブみちのくとその諸先輩方への感謝の念を忘れない。人として、整備士として、妥協のない生き方と仕事がここにある。
(整備事例・画像提供)
須藤ヂャイアント商会
HP: https://www.s-giant.com/
ブログ: https://sgiant.blog.fc2.com/
(原稿編集)
プロジェクトD 泉山大








