私がディーラーで働いていたころ、「車検」や「オイル交換」などの「作業」で顧客を分類していました。たとえば「車検」で来店される顧客は「車検の山田さんと長谷川さん」といった具合に一括りです。作業内容を把握することは大切です。
しかしそれは、最低限のことに過ぎません。大切なのは、「顧客の気持ち」を想像することです。たとえば、山田さんはクルマや整備に詳しくない方です。きっと来店時は、不安や緊張でドキドキされていることでしょう。
一方で長谷川さんはクルマが大好きでマニアックな方です。毎回、スタッフとのクルマ談義を楽しみにされています。このように顧客の気持ちが分かると、対応が変わります。
山田さんには不安を取り除く丁寧な説明が必要です。長谷川さんにはマニアックな整備ネタを一つ仕込んでおくと喜んでもらえるでしょう。

同じ「車検」で来店される顧客でも、「気持ち」は異なります。そのため、来店されるまでの準備や心構えも異なります。
当たり前ですが、顧客の性格や気持ち、クルマへの想い、知識などは一人ひとり異なります。当然、「車検」という作業だけでは分類できません。当時の私は、そんなことにも気づけませんでした。
また、顧客の気持ちは来店後も刻々と変化します。これも私の失敗談ですが、「エンジン不調」で来店された顧客を長時間お待たせし、怒らせたことがあります。
夕方、飛び込みで来店され、タイミング悪く受け付けと納車が重なり、顧客を放置してしまいました。
大切なクルマが不調で不安になって来店されたにもかかわらず、お待たせしたことで「大きな故障なのだろうか?」と顧客の「不安」が大きくなり、さらにお待たせすることで「不安」は私に対する「不満」になり、やがて「怒り」へと変化したのです。
つまり、私は「エンジン不調」という現象は把握していたものの、その時の顧客の気持ちは把握できていなかったのです。
毎日、忙しくしていると、つい「作業」ばかりに目がいきます。しかし、「今、顧客はどんな気持ちだろう?」と少し考える。それだけで、顧客の気持ちに寄り添うことができ、「情緒価値」を生み出すきっかけになるのではないでしょうか?
(筆者プロフィール)
田中伸朗 株式会社ナルネットコミュニケーションズ
自動車ディーラーで整備士・フロント業務を経験。その後、整備士教育や現場改善研修を中心に活動。2021年にナルネットコミュニケーションズに参画し、Webメディア「モビノワ」を立ち上げ。整備工場への情報提供や補助金支援を通じて整備業界の活性化に取り組んでいる。