最初に聞いておけば良かった
ADAS警告灯点灯で入庫した車両の故障診断を始めました。診断を進めても決め手となる情報が見つからず、顧客へ確認すると、「先月フロントガラスを交換した」、「数日前に縁石へ軽く接触したかもしれない」といった情報が後から分かることがあります。
もし受け付け時に確認できていれば、診断の方向性をもっと早く絞れたかもしれません。追加確認や連絡待ちで作業が止まり、診断が数日遅れてしまうこともあるのではないでしょうか。顧客は、どの情報が故障診断に必要なのか分かりません。
だからこそ、整備工場側が必要な情報を引き出す必要があります。
ADAS時代は確認すべき情報の幅が広がった
問診の重要性は今に始まったことではありません。エンジン不調や異音、振動などの故障診断でも、熟練者は症状や発生条件、発生環境をていねいに確認してきました。しかしADAS時代になると、確認すべき情報が増えただけでなく、顧客の申し出そのものも変わり始めています。
たとえば、第1世代のAEBやレーンキープでは、レーダーやカメラの向きが多少ずれていても、顧客が日常使用で異常に気付くことは稀でした。しかし近年普及が進む全周囲モニターや自動駐車などの機能は、顧客が毎日のように利用します。
「最近、全周囲モニターの画面が少しずれて見えるんです」。このような顧客の申し出は、今後ますます増えていくと考えられます。
図1のように、ADAS時代は従来の情報に加え、整備履歴や外的要因も重要な診断情報になりました。診断の基本は変わりません。変わったのは、確認すべき情報と、顧客から得られる情報の幅なのです。
ADAS時代の受け付けチェックリスト
では、具体的に何を確認すればよいのでしょうか。図2は、ADAS警告灯点灯時の受け付けチェックリストの一例です。確認項目を標準化しておくことで、担当者による聞き漏れを減らし、情報収集の品質を安定させることができます。
なぜその情報を聞くのか
ただし、チェックリストを用意するだけでは充分ではありません。「雨の日だけ発生する」、「ガラス交換後から発生している」といった情報も、ADASの知識がなければ診断へ結び付けることはできません。
図3のように、熟練したフロント担当者は質問項目を暗記しているわけではありません。ADAS機能や作動条件、システム構成を理解しているからこそ、必要な情報を引き出せるのです。
また、メーカーによってADAS機能の名称や略語は異なります。主要機能の名称や略語を一覧化して共有しておくことをお勧めします。
フロントだけで抱え込む必要はない
ただし、ADAS機能の具体的な不具合症状や再現条件の確認は、ADASシステムに関する知識や故障診断の経験がなければ難しい場合もあります。フロントだけで必要な情報を集めることが難しいのであれば、リーダーなどが顧客への追加問診を行うことをお勧めします。問診の目的は情報収集です。
誰が担当するかではなく、必要な情報を確実に集められる体制を作ることが重要なのです。
問診の質が見立ての質を決める
第6回では、顧客へ修理の見通しを伝えるための「技術トリアージ」について説明しました。しかし、技術トリアージは集めた情報以上の精度にはなりません。必要な情報が不足していれば見立ても曖昧になります。
逆に、受け付け時点で必要な情報が整理されていれば、診断の優先順位や修理の見通しも立てやすくなります。
そのためリーダーには、「何を聞くか」だけでなく、「なぜその情報が必要なのか」をフロント担当者へ理解してもらう役割も求められます。理由を理解していなければ、チェックリストにない情報を引き出すことはできません。
一見遠回りに思える教育も、電話確認や手戻りを減らし、結果としてリーダー自身の負担軽減につながります。故障診断はスキャンツールを接続した瞬間に始まるのではありません。受け付けでの情報収集からすでに始まっているのです。
次回予告
では、集めた情報を基に、なぜ最初に診断をかけるのでしょうか。次回は、診断をかける目的は故障原因を特定することではなく、情報を整理することにあるという視点から、診断結果の見方について考えてみたいと思います。
(筆者プロフィール)
佐野和昭
東北大学 工学部卒業後、トヨタ自動車へ入社。アフターサービス部門に配属され、品質管理からサービス企画・改善、部品のマーケティングまで幅広い分野を担当。その後、自研センターの取締役に就任。新しいアルミ修理技法などの修理技術開発を担当し、機械・工具メーカーなどと意見を交わした。現在は、車体整備をはじめとした整備関連業界において複数社の顧問を務めると同時に、セミナー講師やコンサルタントとしても活躍中。


