前回は、社員が「この会社の仲間で良かった」と感じられるよう、公式・非公式のコミュニケーションの場を会社が意図してつくることの重要性を紹介した。では、なぜ会社がそこまで社員同士の関係づくりや職場環境に時間とお金をかける必要があるのか。
その答えは、経営者が社員をどうとらえるかにある。私は、人材は「社会からの預かりもの」だと考えている。整備工場にとって社員は、単なる「働き手」ではない。整備士一人、フロント一人、営業一人が会社の大切な仲間であり、人生の貴重な時間をその会社に費やしてくれている存在である。
特に今は、自動車整備業界全体が深刻な人材不足に直面している。数ある会社の中から自社を選び、入社してくれたこと自体がありがたいことである。そして、「人を採用する」ということには、その人の人生の一部を預かる責任が伴う。
どんな先輩に出会ったか。どんな上司の下で働いたか。経営者から何を教わったか。どんな仕事を任され、どれだけ成長できたか。それによって、その人の5年後、10年後は大きく変わる。
だから、人材を「採る」のではなく「預かる」と考える。この考え方を持つと、採用後に会社がやるべきことも変わってくる。
理念に共感し、自社に合う人材を採用する。その人材が安心して働ける環境を整え、定着を図る。そして仕事を通じて成長してもらう。人が成長すれば仕事の質が上がり、顧客満足が高まり、会社の業績も伸びる。
成長した会社には、さらに良い人材が集まる。「採用→定着→成長→会社の成長→より良い人材の採用」という正の循環だ。
しかし、この循環をつくるには前提がある。たとえば、組織活性化のために「サンクスカード」を導入しても、社員が会社に不満を抱えていれば長続きしない。社員旅行を企画しても、心理的安全性の低い職場なら「行きたくない」という社員が増えるだけだ。
給与が適正に支払われているか。長時間労働が常態化していないか。きちんと休めるか。頑張りが正当に評価されているか。そして、上司に自分の考えを言えるか、困った時に相談できるか。
こうした「労働環境」と「心理的安全性」を土台として、その上に社員の「成長感・貢献感・連帯感」をつくっていくことが重要になる。
仕事を通じて「以前よりできることが増えた」と感じる成長感。自分の仕事が顧客や会社、仲間の役に立っていると実感できる貢献感。そして「自分はこの会社の仲間である」と感じられる連帯感。この3つが実感できる職場だからこそ、人はそこで働き続けたいと思える。
前回紹介した公式・非公式の交流の場も、この連帯感を育てるための仕組みの一つである。人材不足だから採用する、では不充分だ。自社に来てくれた社員を「社会からの預かりもの」と考え、安心して働ける環境の中で、成長感・貢献感・連帯感を得られる会社をつくる。
採用活動を始める前に、経営者は「大切な預かりものを、きちんと預かる準備が自社にはできているか」と問い直してみる必要がある。
(筆者プロフィール)
關 友信 株式会社チームエル
取締役CMO。2006年に愛車広場カーリンクのチェーン展開開始と同時に、カーリンク基礎研修の開発に着手、その後も直営店の出張査定センターのマネジメントやディーラーコンサルティングなど、幅広く様々な仕事を経験、2014年からはCaSSの会員制度を立ち上げ、会員向けのサービスや企画を開発。