中東情勢の変化に端を発した石油製品サプライチェーンの混乱は、自動車整備現場や建設・住宅分野の事業者に深刻な影響を与えた。
経済産業省及び国土交通省が複数時点で公表した資料を比較すると、政府・業界が連携して導入した直販スキームを中心とした対策の効果が、数字の上でも明確に表れていることが確認できる。
本記事では、シンナー・塗料及びエンジンオイル(潤滑油)の需給状況に絞り、新旧の資料を対比することで、事態がどのように推移したかを分析する。→前回のまとめ記事はこちら
調査概要—いつ、誰が、何を調べたのか
本記事が参照する資料は以下の通り。
- 経産省資料1(7月24日前後時点):4月〜7月21日ごろまでのデータを含む
- 経産省資料2(8月19日前後時点):4月〜8月24日ごろまでのデータを含む
- 国交省資料1:6月3〜12日実施の第1回アンケート結果及び6月30〜7月9日実施の第2回アンケート結果等を含む
- 国交省資料2(8月20日時点):建設・住宅資材及び自動車整備等の供給要請件数の最新動向
国土交通省のアンケートは、自動車整備・バス・タクシー・トラック事業者(6団体、約20.2万事業者)を対象に継続的に実施されたもの。
経済産業省は、相談窓口への問い合わせ件数を7日間移動平均で集計し、直販スキームの進捗と合わせて随時更新している。
いずれも関係省庁で持ち回り開催された会合、「中東情勢に伴う重要物資の安定的な供給確保のためのタスクフォース」の第3回(~資料1、7月24日開催)と第4回(~資料2、8月26日開催)に提出された資料である。
データの母数や集計方法の性質上、実際の相談内容と一部ずれが生じる場合があることは、各資料において注記されている。
シンナー・塗料—直販スキーム開始後、不安の声は97%減
旧資料が示す「深刻な現場の声」
経産省資料1(7月24日前後時点)において、シンナー・塗料に関する直近1週間(7月15〜21日)の相談件数は2件と、4月末のピーク時から大幅に低下していた。ただし、この数字だけを見ると現場の実態が伝わりにくい面がある。
国交省資料1に含まれる、自動車整備・バス・タクシー・トラック事業者を対象とした調査では、5月25日〜6月7日の期間にシンナーに関する供給の不安の声が682件に達していた。
この時点での直販スキームは6月23日に開始されたばかりであり、経産省資料1では申し込みが計51件・1,696リットル(7月20日時点)に達したと記録されている。なお、トルエン等シンナー原料を最大で例年の1.8倍供給するスキームへの申請も同時点で14件に上っていた。
新資料が示す「改善の定着」
経産省資料2(8月19日前後時点)では、シンナー・塗料の直近1週間(8月18〜24日)の相談件数が1件(前回計測期間の2件からさらに低下)にとどまっている(図1)。直販スキームへの申込み件数・数量は横ばいの傾向を示しており、累計申込みは資料1時点と同じ51件・1,696リットルで推移している(図2)。
一方、注文・出荷状況については随時更新が続いており、現場への実際の供給が進んでいる状況が読み取れる。
国交省資料1(第2回アンケート、6月30〜7月9日実施)において、自動車整備分野では、シンナーに関する不安の声が682件から98件を経て19件へと97%減を記録した。
国交省資料2(8月20日時点)では、自動車整備分野及び建設・住宅分野のいずれにおいても、シンナー・塗料の直近1週間(8月14〜20日)の供給要請件数はゼロとなっている。これは、制度導入前の深刻な需給逼迫と対比すると、著しい改善と言える(図3)。
現場からは「直販の仕組みができて安心して仕事ができる」、「シンナー入荷が進み、確保に困ることはなくなった」といった声が寄せられており、定量的な数字と現場の実感が一致している。
エンジンオイル(潤滑油)—不安の声は84%減、直販スキームの解決件数も拡大
旧資料が示す「広範な調達困難」
経産省資料1において、潤滑油に関する直近1週間(7月15〜21日)の相談件数は14件(前の計測期間である6月30〜7月6日の32件から低下)だった。7日間移動平均は約2〜3件/日と落ち着いた水準に達しつつある段階だった(図4)。
なお、6月10日の直販スキーム開始直後に相談件数が一時的に増加したことが記録されており、これは窓口の認知が広まった結果として説明できる。
自動車整備事業者等を対象にしたアンケートでは、5月25〜6月7日の期間にエンジンオイルに関する供給の不安の声が2,039件に上っていた。その後、6月8〜21日に517件(75%減)、6月22〜7月7日には334件(最初の計測期間から84%減)へと段階的に減少しており、改善トレンドの継続が確認されていた。
直販スキームによる解決件数は、経産省資料1の時点で34件(7月22日時点)と記録されている。
新資料が示す「供給の着実な正常化」
経産省資料2では、潤滑油の直近1週間(8月18〜24日)の相談件数が5件(前回14件)へとさらに低下している。直販スキームによる解決件数は34件から44件(8月24日時点)へと増加しており、供給の進展が数字に反映されている。また、足元では新規の相談がほぼなくなっていることも明記されている。
国交省資料2(8月20日時点)において、自動車整備分野のエンジンオイルに関する直近1週間(8月14〜20日)の供給要請件数は1件にとどまっている。国交省資料1では直近1週間(7月16~22日)のそれが3件だっただけに着実に減っている=供給が安定してきたことが分かる(図3)。
全体トレンド—「正常化」への軌跡を数字で確認する
各品目の相談件数を時系列で横断的に整理すると、共通したパターンが浮かび上がる。
- シンナー(自動車整備分野):供給に関する不安の声は682件から19件へ97%減。6月23日の直販スキーム開始が転換点
- エンジンオイル(自動車整備分野):供給に関する不安の声は2,039件から334件へ84%減。直販スキームの解決件数も34件から44件へ拡大
- 潤滑油(経産省相談窓口):週間相談件数は32件(6月下旬)から5件(8月第3週)へと大幅低下
これらの改善は、単なる時間経過によるものではなく、メーカーから需要家への直接供給ルートを新設した構造的な対策、すなわち直販スキームが機能した結果として読み解くことが重要だ。
従来の卸流通に依存せざるを得なかった小規模整備工場が、直販スキームを通じて物資を確保できるようになったことが、数字の改善につながっている。
なお、目詰まり・偏り解消に協力する団体・企業の登録数は、経産省資料1時点の合計417(188団体・229社)から、経産省資料2時点では459(201団体・258社)へと増加しており、官民連携の裾野が着実に広がっていることも確認できる。
まとめ—改善は数字に表れたが、引き続きの注視が必要
本記事で比較した新旧資料から明らかになった主要な変化を以下に整理する。
- シンナー・塗料の自動車整備向け不安の声は97%減(682件→19件):6月23日開始の直販スキームが決定的な転換点となり、国交省資料2(8月20日時点)では供給要請件数がゼロに到達
- エンジンオイルの不安の声は84%減(2,039件→334件):段階的な改善が継続し、直販スキームの解決件数も34件から44件へ拡大、供給要請件数は3件→1件へ低下
- 潤滑油の週間相談件数は14件から5件へ低下:7日間移動平均は落ち着いた水準を維持しており、経産省資料2では新規相談がほぼなくなったと明記されている
経産省・国交省の資料が示すデータは、政府と業界が連携して整備した直販スキームが、自動車整備現場の小規模事業者にとって実質的な調達手段として機能したことを裏付けている。
今後も各事業者が現場の実態を継続的に把握し、必要に応じて相談窓口や直販スキームを積極的に活用することが、安定した事業継続に結びつくと言える。



