訪問特定整備の対象が広がる見通し どれだけの認証事業者が対応できるのか?

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八木 正純
訪問特定整備の対象が広がる見通し どれだけの認証事業者が対応できるのか?

「法定点検も、ドラムブレーキ交換も、顧客の自宅で」。そんな時代が刻一刻と近づいている。

2026年10月13日の第33回自動車整備技術の高度化検討会で、(限定)訪問特定整備の作業対象を広げる見通しが示された(→関連記事)。ただし、条件は決して軽くない。

この記事では、拡張の中身と追加要件を整理した上で、整備工場の経営者として何を考えるべきかを見ていく。

訪問特定整備には2つの種類がある

まず、制度の基本を確認する。訪問特定整備とは、認証工場が一定のルールの下で、ユーザーの自宅などを訪問して特定整備を行える制度。2025年3月31日に公布され、6月30日に施行された。

出典:第33回自動車整備技術の高度化検討会資料

種類は次の2つ。

  • 訪問特定整備:認証工場の設備要件を満たす場所(例:運送会社の整備作業場)で、すべての特定整備を行う
  • 限定訪問特定整備:設備要件は満たさないが、安全と品質を確保できる場所(例:ユーザーの自宅駐車場)で、限られた特定整備を行う

限定訪問特定整備で現在できるのは、次の4つ。

  • ブレーキパッドの交換
  • 発電機の交換
  • スターターモーターの交換
  • 大特車のステアリングホースの交換

主なルールは次の通り。

  • 依頼者への説明や訪問する整備士への指示は、派遣元の整備主任者が行う
  • 料金の内訳(整備費、旅費など)を示す
  • 訪問する整備士のリストをメールで運輸支局へ届け出る
  • 訪問できる範囲は、同一都道府県内、または自動車でおおむね1時間以内

なぜ見直すのか:規制改革実施計画がきっかけ

現行の限定訪問特定整備は、「事故・故障等による修理」が前提だ。そのため、法定点検(12ヵ月点検)に伴う修理は認められていない。また、対象はディスクブレーキのブレーキパッド交換などに限られている。

これに対し、2026年7月21日閣議決定の規制改革実施計画は、次の2点について国土交通省に検討を求めた。

  • a:法定点検の場合でも限定訪問特定整備を可能にすること
  • b:ドラムブレーキ交換の場合でも可能にすること
出典:第33回自動車整備技術の高度化検討会資料

検討は、整備士の安全、自動車の安全、周囲への環境影響、第三者の安全という視点で進められた。

拡張される内容は何か

検討結果(案)では、次のように整理されている。

  • 限定訪問特定整備:法定点検と、法定点検に伴うディスクブレーキ・ブレーキパッドの交換が対象になる
  • 訪問特定整備・限定訪問特定整備:小型車・中型車のドラムブレーキ・ブレーキライニングの交換が対象になる

大型車は、追加要件を設けても整備士と自動車の安全確保が難しいとされ、対象に含めない方向となっている。

1台当たりの作業工数は想像より大きい

資料では、1台当たりの作業工数(人時)が示されている。※改正後の要件は変更になる可能性もある

  • 現行のディスクブレーキのパッド交換:小型車0.25〜1、中型車1〜1.5
  • 法定点検に伴うパッド交換:小型車1〜1.5、中型車2.5〜3.5(以下、改正後の予定要件)
  • ドラムブレーキのライニング交換(事故・故障等):小型車0.5〜1、中型車1.5〜2.5
  • 法定点検に伴うドラムブレーキ交換:小型車1〜1.5、中型車3〜4
出典:第33回自動車整備技術の高度化検討会資料

法定点検に伴う中型車の作業は、現行の数倍になる場合がある。追加整備が発生する可能性も「高い」とされ、作業時間の見通しも立てにくくなる。

追加要件:自宅訪問のハードルはどこにあるか

法定点検に伴う整備の場合、事故・故障の修理より作業が複雑で、安全面や周辺環境への配慮も必要になる。そこで、次の要件(予定)が課される方向だ。

  • 作業面積:小型車は4m×6m、中型車は5m×9m
  • 安全装備:安全ヘルメット、安全靴、蛍光ベストの装着
  • 安全衛生教育等:安全作業マニュアルの整備・教育、避暑・休憩場所の確保
  • 作業スペースの明示:コーンやロープなど
  • 周辺環境への配慮:用途地域の制限(住居専用地域は不可)
拡張予定対象作業の一覧表
出典:第33回自動車整備技術の高度化検討会資料

さらに、ブレーキ交換の対象が中型車以上の場合は、次の要件が加わる。

  • 訪問最低作業人数:2人
  • 作業工具:タイヤドーリー、インパクトレンチ

現行で可能な中型車・大型車のディスクブレーキのパッド交換にも、同様の追加要件が課される方針だ。

経営者として考えたい3つのポイント

人員に余裕はあるか

資料では、1台当たりの作業人数は2〜4人が目安とされている。認証工場の整備士が少人数の場合、1人を訪問に出すだけで店内の作業が回らなくなるおそれがある。

全国には約92,000の工場がある。そのうち、中型車の法定点検までとなると、実際に対応できる工場はどれだけあるのだろうか。

設備・装備の投資は見合うか

タイヤドーリーやインパクトレンチ、コーンやロープ、安全装備、マニュアル整備と教育が必要だ。訪問の件数や料金で回収できるか、事前に見積もっておく必要がある。

電子制御装置整備の認証は取れているか

2026b年9月末時点の速報値では、運行補助装置の電子制御装置整備の認証は次の通り。

  • 新規(電子制御装置整備のみ):2,347件
  • 新規(分解整備+電子制御装置整備):2,950件
  • 変更(分解整備+電子制御装置整備):58,484件
  • 新規と変更の合計(分解整備+電子制御装置整備):63,781件

分解整備と電子制御装置整備の両方を持つ事業者は、約6万工場から大きく伸びていない。ちなみに、自動運行装置の新規は0件で、変更が231件。

一極集中への懸念も

国土交通省は、近隣に整備工場がなくて困る「整備難民」を生まない取り組みを進める方針を打ち出している。

一方で、今回の訪問特定整備の対象拡張は、実際に実施するとなれば人員に余裕のある大規模工場に仕事が集まりやすくなる、という見方もできる。最新技術や設備に追随できない小規模工場の淘汰を、やむを得ないと判断したのだろうか。

あるいは、資料から断定はできないが、整備士を派遣するサービス事業者からの要請に応えた改正、という可能性もある。

まとめ:今のうちに自社の立ち位置を確認しよう

要点を整理する。

  • 限定訪問特定整備で、法定点検と、それに伴うディスクブレーキのパッド交換が可能になる見通し
  • 小型車・中型車のドラムブレーキのライニング交換も、(限定)訪問特定整備の対象になる見通し
  • 大型車は対象外の方向
  • 作業面積、安全装備、教育、2人以上の作業体制などの追加要件がある
  • 1台当たりの作業工数は2〜4人が目安で、人員に余裕のない工場には負担が大きい

自社の人員、設備、認証の状況で、訪問整備に踏み出せるのか。それとも見送るのか。改正制度が動き出す前に、いま一度、判断の材料をそろえておこう。