調査概要
本レポートは、中東情勢を背景とした石油関連製品の需給状況を把握するため、MSRweb編集部が実施した緊急調査に基づいている。調査対象は、自動車整備業界団体2団体、自動車部品商5社・19拠点、及びエンジンオイル商社2社。
回答内容は期限として設定された2026年5月15日時点のもの。本レポートでは、各調査対象から得られた情報を横断的に整理・分析し、現在の業界全体の状況を客観的にお伝えする。
「物がない」のではなく「注文が多過ぎる」—需給ひっ迫の本質
結論から申し上げれば、現時点でエンジンオイルそのものが絶対的に不足しているわけではない。日本自動車整備商工連合会(整商連)へのヒアリングでは、「物が足りないことはない」としており、2026年4月の組合員工場への出荷量の総計は前年同月比(概算)で100%を超えているとのことだ。
では、なぜ「手に入らない」という声が業界に広まっているのだろうか。
問題の核心は、注文量が生産能力を大幅に超えたことにある。整商連の情報では、注文量総計が前年比で約4〜5倍にまで膨れ上がっており、石油元売り各社はあらかじめ前年実績をベースに当年(翌年)の生産計画を立てているため、急増した需要に即座に対応することができない。
その結果、4月分の生産量だけでは4月の受注をさばき切れず、本来5月・6月に生産・出荷予定だった分を前倒しで充当している状態。これが現在の受注停止の直接的な原因になっているのだ。
受注停止の事実は一部の自動車整備振興会(商工組合)の会報を通じて会員向けに案内されており、業界レベルでの情報共有が進んでいる。
「先食い」と「囲い込み」—需給ひっ迫を加速させる2つの構造
現在の混乱を深刻化させている要因として、2つの構造的な動きが確認されている。
第一に、将来不安による過剰発注(囲い込み)である。
中東情勢の長期化や、何らかの理由で今後の生産・出荷が停止するリスクへの備えとして、「今のうちに在庫を確保しておこう」という心理が業界全体に広がっている。この行動が、さらなる注文量の増加を引き起こし、需給ひっ迫を加速させる悪循環を生んでいる。
第二に、供給の優先順位付けがある。
物量が限られる中で、石油元売りやメーカーは供給先に優先順位をつけざるを得ない状況となっている。整商連の情報によれば、アフターマーケット(整備専業工場)よりもカーメーカーの新車生産ラインが、また普段取り引きのない整備工場よりも既存の取り引き先が優先される傾向があるという。
当然と言えば当然の話であるが、たとえば元売りE社も生産・出荷を停止しており(5月13日時点の情報)、普段取り引きのなかった整備工場がそこに泣きつくも自社系列への優先供給を理由にあえなく断られ、次いでやはり普段取り引きがない商工組合に泣きつくものの、そこでも断られるという事例が一部媒体で報告されている。
この状況を身を以て体感した整備工場が、単に「○○が売ってくれなかった」と吹いて回っているケースが該当するというので、決して噂話に振り回されぬよう、正確な判断が求められる。
某業界団体の回答—全国的な需要過多を確認
某自動車整備の全国団体にも調査を行ったところ、エンジンオイルについて全会員の約70%の状況を把握しているとのことで、その状況認識はかなり明確だ。
やはりエンジンオイルは需要過多であり、特に注目すべきは、エンジンオイルの中でも「DH-2(ディーゼル車用高性能エンジンオイル)が入手できない」という具体的な声が寄せられている点だ。特定グレードへの需要集中が、さらなる調達難を引き起こしている可能性がある。
今後の見通しについて同団体は、「供給制限をしながらしのいでいくが、しばらくは厳しい状況が続く」と回答している。楽観的な見通しを示す声は、現時点では聞かれない。
部品商5社・19拠点の声—「仕事が止まっている」、「アフターマーケットが崩壊に向かう」
部品商5社・19拠点からの回答は、現場の深刻さを端的に示している。
販売量・販売単価のトレンド
販売量については、各社の回答に多少のばらつきはあるものの、4月時点では大多数の拠点で前年比「減った」と回答している。これは供給不足により「売りたくても売れない」状況を反映している。一方、販売単価については、3月時点では「前年並み」が多かったものが、4月に入ると「上がった」と回答する拠点が増加しており、供給制約を背景とした価格上昇の傾向が顕在化している。
需給状況の評価
19拠点のうち18拠点が「需要過多」と回答しており、「供給過多」と答えた拠点はわずか1拠点にとどまっている。この数字は、現場レベルでの危機感の強さを如実に示すものだ。
現場から寄せられた声(抜粋)
部品商の現場から寄せられた声は、数字以上に切実な実態を伝えている。
- 「商品の供給がなく販売できず、ユーザー(整備工場)も仕事が止まっている」
- 「油脂メーカーでは今後の製造見通しが立たないため、かなりの出荷制限をかけている」
- 「供給が全く追いついていない。価格も便乗値上げでとても高くなっている」
- 「エンジンオイルやナフサを原料とする商品が欠品で供給が少なくなり修理作業ができない状況で困っている」
- 「オイルの状況は良くなくメーカーもお手上げ状態、整備工場はこのままいくとオイル交換を断らないといけないと考えている」
- 「需要に対しキャパオーバーをしており対応しきれない。販売先からは、商品の入手が困難で整備を含め業界が混迷している」
「仕事が止まっている」、「修理作業ができない」という表現は、部品商の経営問題にとどまらず、最終ユーザーであるカーオーナーへの影響がすでに現実化していることを示している。
商社2社の調査結果:販売量は落ち、単価は割れている
商社2社(A社:複数銘柄取り扱い、B社:単一銘柄)への調査では、次のような傾向が確認された。原材料の受注量は両社ともに減少または横ばいで推移しており、たしかに需要過多を支えるだけの原材料が確保できていない状況がうかがえる。
A社とB社で原材料の単価動向が逆方向を示しているのは注目すべき点だ。複数銘柄を取り扱うA社では単価が下落している一方、単一銘柄のみを扱うB社では上昇が続いている。これは取り扱い銘柄の調達ルートや市場特性の違いが反映されていると考えられる。
販売量・販売単価にも下落圧力
A社の販売量は3月・4月ともに減少しており、B社が前年並みを維持しているのとは対照的だ。販売量が減っているにもかかわらず、両社ともに現在の需給状況については「需要過多」と認識している点が重要である。これは、「売れていない」のではなく、「売りたくても在庫がない」という供給側の制約によるものであることを示している。
現場から寄せられる声としては、A社からは「特にドラム缶の供給が難しい」、B社からは「ナフサ不足が深刻である」との報告がある。今後の見通しについて、A社は「引き続き厳しい」、B社は「不安定」と回答しており、両社とも先行きに楽観的な要素を見出していない。
今後の見通し:6月以降に本格的な在庫切れが懸念される
部品商各社の今後の見通しは、全体として非常に厳しいものとなっている。代表的な回答を以下に整理する。
- 「6月に入るとパニックになると思う」
- 「潤滑油は7月が最も厳しい供給状況になると予測している」
- 「5月は持ちこたえられるが、6月以降は今まで以上に困難になる。アフターマーケットが崩壊に向かう」
- 「需要については、使用量の制限が始まっているので平時よりは減っているが、依然として供給量よりは使用量が上回っているので、今のままだと6月ごろから在庫切れが本格的に始まると推測している」
- 「各種ルートで少量ずつ供給再開されるところが出てきているので、明るい兆しでないかと期待して見ている」(唯一の前向きな声)
現在の「先食い」状態が続けば、在庫の本格的な底割れは6〜7月ごろに到来するとの見方が多数を占めている。一方で、整商連へのヒアリングでは「何らかの理由で生産・出荷が停止してしまうことへの恐れ」から今のうちに在庫を囲い込もうとする動きがあるとも指摘されており、需要側の過剰発注がさらに供給ひっ迫を加速させる悪循環に陥っている可能性も否定できない。
まとめ:今明らかになっていること
本調査から明らかになった主要な事実を以下に整理する。
- 出荷量は前年同月比で増加しているが、需要増加のペースが生産能力を大幅に上回っており、構造的な受注停止に至っている
- 石油元売りの前年実績ベース生産計画という構造的制約が、需要急増への即応を不可能にしている
- 4月を境に販売量の減少・販売単価の上昇が複数社で確認されており、逼迫の深刻化が数字にも表れている
- 部品商19拠点中18拠点が「需要過多」と回答し、現場では「修理作業が止まっている」「オイル交換を断らざるを得ない」状況も生じている
- DH-2(ディーゼル用高規格オイル)をはじめ特定品番の入手が特に困難になっている
- 6〜7月にかけてさらなる在庫切れが本格化するとの見方が業界内で広がっており、先行きは依然として不透明な状況が続いている
引き続き最新情報のアップデートに努めてまいりたい。