売り手は早期準備、買い手は体制整備 それぞれ目的の明確化がM&A成功の鍵
中小企業の M&A は今、廃業回避だけでなく戦略的な選択へと変化している。しかし、準備不足で挑むと思わぬ落とし穴も。売り手が陥りやすいギリギリの決断のリスクとは? 買い手に求められる「選ばれる会社」の条件とは? 後悔しない M&A 成功の鉄則を、本誌連載でもおなじみのフォーバルの長谷川章義氏に聞いた。
M&Aの売り手の最近の傾向は?
基本的には、財務的に厳しくなった、後継者がいなくなったなどの状況に直面してから、M&Aを検討する人が多い。先々のことを考え戦略的にM&Aを選択する企業も増えてきた。
相談内容で一番多いのは、「後継者不在でどうすればいいか分からない」だ。廃業手前での相談も多い。以前はそのまま廃業を選ぶのがほとんどだったが、最近は銀行や税理士などの提案からM&Aという選択肢に気付く人も増えている。
戦略的M&Aの具体例は、業績悪化やDXへの対応が難しく、大手の力を借りるためにM&Aを検討する、といったもの。また、経営者としての器はないが現場は続けたいので自分を現場責任者として残すこと、あるいは息子を社員として会社に残すことを条件にするケースも増えてきている。
M&Aの買い手の最近の傾向は?
従業員はそのまま引き継ぐのが基本な条件になっている。ただパターンは多様化しており、地方では大手が買収するケースや、その地域で一番手の企業が買収、同規模の小さい会社同士が連携するケースなど様々。
不動産目的で土地・建物付きの案件を狙う買い手もいる。ただ、基本的にはシナジー効果への期待が重視される。M&Aを成長戦略の一環ととらえ、「時間をお金で買う」という考え方も浸透している。ゼロから事業を立ち上げるより、既存の会社を買収することで、人材も許認可も一度に入手できる。
買い手の数は年々増えており、売りの数も同様に増えている状況。大手はM&Aでさらに大きく成長し、中小企業との二極化が進んでいる。物流、運送会社の参入も増加した。
最近の傾向として、買い手のM&Aに関する知識が深まり、買収の目的が非常に明確化している。一方で、条件がピンポイントになり、以前よりもマッチングが難しくもなっている。
M&Aで売り手が注意すべきポイント
M&Aの目的を明確にすることが最も重要だ。従業員の雇用を守りたいのか、少しでも高く売りたいのかによって、交渉の進め方や相手選びが変わる。
そして、ギリギリのタイミングでの相談は避けるべきだ。決算書の整理、複数いる株主からの了承、親族間で共有している不動産の整理など、事前準備に時間がかかる。体調不良などを理由に「早く引退したい」と思っても、そこから1~2年かかることもある。
たとえば「引退からの逆算経営」という考え方で、事業を始めた時から引退を意識し、5年後、10年後の会社の姿をイメージしておくことが理想的。
準備期間をしっかり確保できれば、企業価値を高める施策も打てる。財務内容が良い時に売却するのが最も高く売れるが、多くの人は検討の機会を逃して、逆の状況になりがちだ。
企業価値には「数字(売り上げ)」と「組織」の二つの側面がある。特に、経営者個人の力に依存する会社は、その人がいないと価値が下がると見なされる。業務の属人化を解消し、組織として機能する体制を整えておくこと。
M&Aで買い手が注意すべきポイント
「会社を買えば何とかなる」という安易な考えでM&Aに手を出すのは危険。株式を買うだけでなく、その後の経営、システム統合、従業員の教育や採用など、考えるべきことは山積みだ。自社の体制が整っていないのに他社を買収しても、うまくいく可能性は低い。
良い売り案件には複数の買い手が集まるため、「選ばれる会社」になる必要がある。売り手は買い手のwebサイトを必ず見て、トップ面談での言動や立ち振る舞い、服装まで細かく見る。
また、当事者同士での直接交渉はリスクが高い。特に小規模な会社ほど、決算書に現れない負債や、社長個人の資産と会社の資産の混同が多く、後から問題発覚することがある。仲介手数料を惜しんで直接話を進めると、かえって大きな損失を被る可能性がある。
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