「いくらかかるの?」「いつ終わるの?」
電子制御化が進んだ現在でも、顧客が整備工場に入庫した時に最も知りたいことは昔と変わりません。「いくらかかるのか」、「いつ終わるのか」です。もちろん故障原因も気になります。しかし多くの顧客は、まず修理費用や納期の見通しを知りたいと考えています。
これは病院の救急外来によく似ています。救急搬送された患者や家族も、最初から確定診断を求めているわけではありません。まず知りたいのは、「今日帰れそうなのか」、「入院になりそうなのか」という見通しです。
電子制御整備でも同じです。顧客が求めているのは、100%正確な診断結果よりも、まず修理の見通しなのです。
即答も無回答も危険
では、顧客から費用や納期を聞かれたら、どう答えるべきでしょうか。
図1 左①のように、充分な確認を行わず楽観的な見積りや納期を伝えてしまうのも、反対に図1中央②のように、「今は何も言えません」と見通しを伝えないのも適切とは言えません。後者は、「見込みで話して外れたら困る」、「後で金額や納期が変わるとクレームになる」という、誠実な思いから生まれる対応でもあります。
しかし、顧客が知りたいのは100%正確な答えではなく、「今どこまで分かっているのか」、「次に何をするのか」、「いつごろ連絡が来るのか」といった見通しです。そこで有効なのが、図1 右③のような対応です。現時点で分かる範囲を誠実に説明し、必要な確認時間をお願いすることが重要になります。
たとえば車検や法定点検で入庫した車両なら、「15分ほどお時間をいただければ、もう少し正確な見積りや納期をお伝えできます」と説明する方法があります。警告灯が点灯していなくても、スキャンツールで診断をかけると異常履歴や故障コードが確認できる車両は少なくありません。少し時間をいただくだけで、その後の顧客への説明の精度を大きく高められる場合もあるのです。
なぜ見通しを立てられるのか
では、その見通しは何を根拠に判断するのでしょうか。
救急外来では、図2 左①のように、まず患者から症状を聞きます。続いて図2左②のように顔色や呼吸状態、歩き方などを観察し、図2 左③で体温や血圧などを確認します。そして、それらの情報を基に図2 左④で見立てを行い、緊急性や重症度を判断します。
整備工場もまったく同じです。まず図2右①のように、顧客から症状や発生条件をうかがいます。続いて図2右②のように現車状態を確認し、さらに図2右③のように警告灯の状態やスキャンツールによる診断結果、基本的な車両状態を確認します。電子制御化が進んだ現在では、こうした受付時の情報収集が見立ての精度を大きく左右します。
そして、それらの情報を基に図2 右④の技術トリアージを行います。私はこれを「修理難易度の見立て(技術トリアージ)」と呼んでいます。これは故障原因を確定する作業ではありません。
限られた情報から、「比較的短時間で終わりそうか」、「深い故障診断が必要そうか」、「長期化しそうか」を判断し、顧客への見通しや工場内での優先順位につなげる作業なのです。
顧客が本当に知りたいこと
では、技術トリアージの目的は何でしょうか。もちろん工場運営の効率化にも役立ちます。しかし本来の目的は、顧客へ適切な説明を行うことです。図3のように、顧客が知りたいのは故障原因だけではありません。
①費用 ②納期 ③安全性 ④修理方針
これらを分かりやすく説明できるかどうかが、顧客の納得と信頼につながります。だからこそ、「このまま乗っても大丈夫か」、「どのくらいの費用になりそうか」といった疑問に答えるためにも、最初の見立てが重要なのです。
技術力は信頼を生み出すためにある
電子制御整備が難しくなった現在では、診断技術だけでは充分ではありません。
①現時点で分かっていること
②まだ分かっていないこと
③今後の見通し
それらを分かりやすく説明する力も求められています。技術トリアージは工場のためだけではありません。顧客との信頼関係を築くための第一歩でもあるのです。
次回予告
見立ての精度を左右するのは、スキャンツールだけではありません。次回は、見立ての精度を高める「情報収集」がテーマです。発生環境や整備履歴など、熟練者が診断前に確認しているポイントを紹介します。
(筆者プロフィール)
佐野和昭
東北大学 工学部卒業後、トヨタ自動車へ入社。アフターサービス部門に配属され、品質管理からサービス企画・改善、部品のマーケティングまで幅広い分野を担当。その後、自研センターの取締役に就任。新しいアルミ修理技法などの修理技術開発を担当し、機械・工具メーカーなどと意見を交わした。現在は、車体整備をはじめとした整備関連業界において複数社の顧問を務めると同時に、セミナー講師やコンサルタントとしても活躍中。


