整備士の「大切さ」は知られているのに、なぜ若者は車に興味を持たないのか

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八木 正純
整備士の「大切さ」は知られているのに、なぜ若者は車に興味を持たないのか

自動車整備士の重要性は、多くの人に理解されている。それでも、この仕事を志す若者は増えない。この矛盾を、整備工場が個社単位で埋めることはできるのか。本稿ではその方策を考えてみたい。

人手不足が深刻な業界の1つ

日本ではあらゆる業界で人手不足が起きている。なかでも自動車整備業界の不足ぶりは顕著だ。有効求人倍率は約5倍と、他の業界を群を抜いて上回っている。

こうした状況で、即戦力として働ける人材(日本人)を確保する妙案は、すでに出尽くした感がある。ならば発想を変え、長い目で見た手を打つべきではないか。未就学児や小学校低学年といった層が、将来、整備業界へ進みたくなるような働きかけである。その根拠になりうるデータが、すでに出ている。

データが示す好意的な反応

昨秋のジャパンモビリティショーの特設ブースで、小学生を対象にした整備士体験が行われた。同伴した保護者へのアンケートでは、内容に満足したという回答が9割以上、整備士の重要性を理解したという回答も9割以上にのぼった。

出典:第33回自動車整備技術の高度化検討会資料

高校生の結果も心強い。2025年度に実施した整備士体験では、自動車整備業界が進路の「候補となった」と答えた人が参加者の7割弱、「前向きに考える」が1.5割ほどで、合わせて約8割が好意的だった。同じく高校生向けの整備工場見学では、参加者全員が「整備士の重要性を理解できた」と答えている。

出典:第33回自動車整備技術の高度化検討会

見えてきた「興味のなさ」というギャップ

ところが、ここで終わらないのが現実である。同じ整備工場見学の参加者に、自動車への興味をたずねた結果がある。「大変興味がある」と「少し興味がある」を合わせても、ほぼ半数の56%。残る44%は「興味がない」と答えた。

理由として突出していたのは3つだ。

  • 「車のことを知らない」(A)
  • 「日常で車に乗らない」(B)
  • 「維持費がかかる」(C)

AとBは、身近に車がない、都市圏の高校生の回答だと思われる。一方のCは、車が身近にありながら、負担の大きさというネガティブな印象を抱いている層の声と見られる。

いずれの回答も、整備の重要性は理解しているのに、車そのものには興味が湧かない。これが、進路検討を目前にした高校生が抱える、理解と関心のギャップである。小学生の保護者も高校生も整備士の重要度は分かっているのだから、このギャップさえ埋められれば、業界を目指す若者は増えるのではないだろうか。

ポイント1:興味のなさに、1つずつ答える

では、整備工場は何ができるのか。まず、理由A・Bに対しては、車が身近になくても、バスやタクシーには乗るはずだと伝えたい。物流、災害対応の消防車や救急車、ゴミ収集車、営業職の営業車両もある。社会インフラにもなっているのは車であり、だからこそ社会人の一員としてもっと興味を持とうと呼びかける。そして、そのインフラを支えているのが自動車整備業界、という見方を添えたい。

次に、理由Cには、自分で維持費を負担しない乗り方があると示す。レンタカー、カーシェア、タクシーだ。しかもこの3つ、電車やバスと違い、決まった時間に縛られず移動できる。すばらしいことじゃないか! と。その自由を支えているのもまた、自動車整備業界というわけである。

ポイント2:市場の大きさを、仕事の安定性として伝える

さらに、市場の大きさ、つまり顧客数の期待値が、仕事の安定性につながることをアピールしたい。全国には約9万の整備工場があり、その数はコンビニエンスストアより多い。これは何を意味するのか。すなわち、コンビニよりも必要とされているということだ。

日本の自動車保有台数は約8,000万台。全年齢で数えても、3人に2台を所有している計算だ。人口の約6割を占める労働人口に絞れば、1人1台以上に近い数字になる。これだけの車を支える仕事が、そう簡単になくなるはずがない。

ポイント3:中学2年生の保護者に届ける

職業や将来の進路を現実的に意識し始めるのは、中学生のころだと考えられる(筆者、現在進行形で体感)。先ほど紹介したアンケート結果にもあるように、小学生の時に整備業界へ背中を押してくれた保護者の関心を、その子が高校生になるまでつないでいくことが大切だ。

以上を踏まえて、、中学2年生あたりの保護者を対象に、自動車整備業界への理解を深め、関心を求める説明の場を設けてはどうか。日本自動車整備振興会や各県の自動車整備振興会に任せるのも良いが、感謝祭などの自社イベントを利用するのもより効果的だろう。

より実践に近い形の整備士体験、そこに参加した本人とその保護者を対象に行う小セミナー。あるいはその内容を簡単にまとめたチラシを作って配るでも良い。また、学校で行っている職場体験授業やインターン制度も積極的に活用したい。

現在も数こそ少ないが、整備専門学校・自動車大学校を卒業して整備専業者に就職する若者の中には、学校の近隣にそのまま就職するのではなく地元に戻るというケースもある。個社個社がやるからこそ、後々効いてくるというわけだ。

興味と理解をつなぐのは、現場の一歩から

整備士の重要性は、すでに多くの人に伝わっている。足りないのは、そこから「車」や「この仕事」への関心へと橋を架ける働きかけだ。体験会や見学会の場で、車が社会や暮らしを支えていることを、次のステップとして整備工場自身の言葉で語りたい。小さな一歩の積み重ねが、業界の未来を形づくっていくと、私は考えている。