昭和自動車からデファクトへの経営譲渡に見る成功の鍵
6月15日、人材サービスや出張整備・アフターサービス事業を手がけるアプティ(井田秀明代表取締役、東京都渋谷区)が千葉県柏市で整備工場を運営する昭和自動車の全株式を取得。アプティグループの新会社「デファクト」として新たな経営体制をスタートさせた。M&Aの経緯と工場の目指す未来について、昭和自動車の前代表取締役 江原敏雄氏と、デファクトの代表取締役に就任した齊藤孝通氏それぞれに話を聞いた。
昭和自動車の成り立ちと、M&A による事業承継に至るまでの経緯について
江原 当社の設立は1964年2月。その1年前から、柏市内の十余二交差点に国道16号線が開通するという情報があり、それまで農家だった先代の父と親戚が3人で修理工場を創業した。当時、道路も舗装されておらず、周囲も田んぼや畑しかなかった。
私自身が社長に就任したのは1996年で、以来30年以上経営してきた。年間車検台数は毎年600台以上。地場の顧客を中心に、地域に根ざす工場として発展させてきた。
いずれは事業承継をと考えていたが、子どもたちはそれぞれ別の業界に巣立ち、親族に後継者がいない状態になった。地域の顧客や、長年勤めていた6人のスタッフの今後を考えると閉鎖はできなかった。
そして2023年、病院の検査で自身の脳梗塞が発覚したこともあり、行動を急ぎ本格的にM&Aを検討した。付き合いのある会計事務所づてにある紹介会社から、デファクトにつないでいただいた。

デファクトの設立経緯について
齊藤 整備工場の後継者不足による廃業と、それに伴う地域の整備インフラの崩壊を防ぐため2026年に設立した。後継者不足による事業承継の問題は、もはや看過できないレベルにまで深刻化している。地域の交通インフラを支える重要な役割を担ってきた町の整備工場が、次々と廃業を余儀なくされているのが現実だ。
このままでは、適切な整備を受けられない整備難民がますます増加してしまうだろう。アプティの持つアセットを最大限活用して、自動車業界の抱える課題解決に寄与していくほか、今回のような M&Aも含めて積極的に自社の事業領域も拡大させていきたい。
締結を決定づけた決め手
江原 数社紹介された中で、諸条件が合致したのがデファクトだった。しかし、それ以上に大きかったのは、代表である齊藤氏の人柄だ。初めて会った時から親近感を覚え、その行動力としっかりとした考え方に触れ、この人になら昭和自動車の未来を任せられると確信した。会社をさらに発展させてくれるに違いない、という強い信頼感を抱いたのが最終的な決め手となった。
齊藤 関東圏で工場を探していた中で、同社と出会った。最大の理由は、江原前社長の人柄に感銘を受けたことだ。
それに加え、約60年にわたり地域に根差して築かれた歴史と伝統は、尊敬に値する。この素晴らしい基盤を継承し、現代に即した経営手法を取り入れることで、さらなる発展が可能だと考えた。国道16号線沿いという好立地、そしてスタッフの方々の人柄の良さも、決断を後押しした。
我々はここを次世代につながる新しい整備工場のモデルとして提唱していくための、いわばフラッグシップ拠点として位置付けている。

契約内容について、可能な限り教えてほしい
江原 正社員の継続雇用を中心に、会社の持つ各権利や建物は譲った。土地だけは私自身が個人の別会社を立ち上げそこで管理し、貸し出す形を取った。
齊藤 当初は非正規雇用であったフロントのスタッフたちは退職の意向を示していたが、賃金を含む雇用条件について従来以上の待遇を提案し、納得の上、継続してもらうことができた。
デファクトの経営方針、雇用条件や今後の展望について詳しく
齊藤 新しいことに積極的に挑戦していく。アプティで人材事業や出張整備事業に携わってきた経験を踏まえて、私なりにより地域に貢献できる領域は見定めができている。ここでスピーディーかつ確実に取り組んでいく。
また働き方改革に向けて、年間休日120日以上、土日祝日休み、週休3日も視野に入れた福利厚生の制度構築に加え、今年の秋をめどに物理的な環境整備にも着手する。工場はフルリノベーション予定。また人材面についても、すでに19歳の若手の技術者が1人入社しており、今後も我々のビジョンに共感した5人が新たに入社する予定だ。
屋号も変わる締結内容であったが、交渉は円滑に進んだと聞いている。円満な事業承継を実現できた要因は
江原 まず、私から「昭和自動車」という屋号の存続を強く希望はしなかった。それよりも新会社として、新たな名前で発展させてもらうほうが、顧客にも、働き続ける従業員にも良いと考えたからだ。
現場の社員へも齊藤氏からヒアリングしてもらい、擦り合わせをしてもらった。屋号が変わることを含め最初は戸惑いはあったものの、齊藤氏の人柄や譲渡後の福利厚生の拡充もあり早期に受け入れられた。
基本的な方針は早い段階で合意しており、詳細の調整に時間は要したが、根本的な部分での衝突は一切なかった。
齊藤 江原社長が非常に柔軟に対応してくださったことに、心から感謝している。我々買い手側が一方的にやり方を押し付けるのではなく、これまで会社を支えてこられた方々の歴史や文化を尊重することが何よりも重要だ。
私たちは、従業員の皆さまに納得していただけるよう、常にオープンなコミュニケーションを心掛けた。福利厚生の改善など、まずは我々が入ることでプラスになる部分を先に実行し、信頼関係を築いていった。こうした対話の積み重ねが、円滑な移行につながったのだと思う。
最後に、事業承継に直面している全国の同業者へメッセージを
江原 最も大切なのは、これまで築き上げてきた従業員の雇用、顧客との関係、そして会社の伝統を守り、発展させてくれる相手を見極めること。目先の条件だけでなく企業の将来像を共有できるパートナーと出会うことが肝要だ。
齊藤 売り手企業が持つ歴史と文化への深いリスペクトが不可欠。私たちは、同社が60年かけて築いた基盤の上に、新たな価値を創造させていただいているに過ぎない。従業員の皆さまや顧客、そして創業者の想いを引き継ぎ、未来へつないでいく。その覚悟と誠実な姿勢こそが、成功の鍵だと信じている。
-現場スタッフの声-

今回の M&A について現場スタッフたちはどう受け止めたのか。現場を代表し、父の代から親子二代で勤める整備士・福田健司氏に率直な胸の内を聞いた。
M&Aに対する当初の印象は
福田 正直なところ、“M&A”という言葉に対して、あまり良いイメージを持っていなかったため、最初に話を聞いた時は大きな不安を感じた。それは私だけではなかったようで、他の従業員からも、拒否反応に近い感情や、「身の振り方を考えなければならない」といった声が漏れ聞こえてきたほどだ。
まだ具体的な内容が何も知らされず、会社が変わるという事実だけが先行したため、将来どうなってしまうのかという漠然とした不安感が現場を覆っていたのは事実だ。
その不安は、どのようにして期待へと変化したか
福田 転機となったのは、デファクトの齊藤代表をはじめとする新経営陣との対話だった。ディスカッションを重ねる中で、当初漠然と抱いていたM&A への負のイメージとは少し違うのではないかと感じ始めた。特に彼らが提示する福利厚生は、我々整備士にとって非常に魅力的だった。
将来に対する漠然とした不安は、明確な期待感へと変わっていった。成果が報酬に直結する仕組みも提示され、モチベーションが大きく向上している。
現場の雰囲気はどう変わったか
福田 象徴的なのは、これまで自らの意見をあまり口にしなかった同僚が、今では積極的に業務改善の提案などを行うようになったことだ。彼の中にも、未来が明るく見えてきたという実感があるのだろう。今では現場全体が前向きな空気に包まれており、以前に増して良い雰囲気で仕事に取り組めている。
今回の M&A を振り返り、改めてどう感じているか
福田 今回の M&A は、我々従業員にとっても理想的な形での事業承継になったのではないかと感じている。当初の不安を乗り越え、今はただ、新しい会社の方針に協力し、より良い職場を築いていきたいという思いで満ちている。
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