中小企業の8割がカスハラ対策手つかず
2026年10月1日のカスハラ対策義務化により、大企業は様々なアクションを起こしている。たとえば、航空業界はカスハラ対策で連携し、顧客のNG行為を分類して取り決めた。そのNG行為は、10月より機内プログラムで周知を行っている。また、大手証券会社では顧客とのやりとりにおいて、その会話を録音する証跡確認を実施するなど、様々な対策が進められている。
しかしながら一方で未だ準備不足の企業も少なくない。
改正労働施策総合推進法施行直前の9月上旬にクラウドサービスを手掛ける企業が行ったカスハラ実態調査によると、カスハラの方針が「整備されていない」と答えた企業は全体で61.3%にのぼり、過半数を超える結果となった。従業員1,001名以上の大企業でも45.6%が「整備されていない」と回答する一方、従業員100名以下の中小企業では80.8%にも及んでいる。

ステップ1 ひな形を活用してカスハラ方針を策定
中小企業のカスハラ対策が遅れている要因は、やはり「経営資源の不足」と「顧客との力関係」に集約される構造的な問題である。人的リソースの問題に加え、機材や設備の投資は大手企業が有利であることは疑いようもない。しかしながら、中小企業は大企業と同じ対策を講じる必要はなく、身の丈にあったカスハラ対策からスタートすることが重要である。持続的に実施できる制度設計こそが求められているからだ。
まず、策定すべきは「カスハラに対する方針の明確化と周知」である。経営トップが「カスハラは許さない」「従業員を守る」という強い意志を社内外に発信することは、現場の大きな安心感に繋がる。これにより、理不尽なクレームから従業員と組織を守るだけでなく、「社員を大切にする会社」として企業の信頼を高め、結果として他の顧客へ質の高いサービスを届けることにも直結することになる。
方針策定にあたっては厚生労働省がカスハラ基本指針の実際の文例(ひな形など)を参考にするのが効率的である。同省が運営する「あかるい職場応援団」というサイトでひな形などが公表されている。
また、大手企業や他社が策定した方針を参考にするのも良い。その中にNG例を具体的に盛り込むことでカスハラとクレームの線引きを内外に示すこともできる。社内への周知は就業規則の改定のみならず、社内チャット(LINE WORKSなど)を用いるなど、従業員に分かりやすく可視化させることが重要だ。
ステップ2 相談窓口は現行体制や社内チャットなどを活用
整備事業者、自動車販売事業者における相談体制はすでにクレーム対応で用いている相談ルートをそのまま活用することが現実的対応だろう。整備(サービス部門)であれば工場長、販売部門であれば部長の各上長がその窓口となっているケースが多いと考えられ、そのまま活用が可能だ。ただし、その際においても、改めて従業員に周知するとともに、組織図に相談窓口として記載することが重要である。正式な窓口の設置を社内外に発信するとともに、行政の監査などのエビデンスとしても有効になる。
本記事前編でも触れた通り、従業員は会社への相談・報告をためらうケースが跡を絶たない。窓口とは、その事案がカスハラか否かをジャッジするための入口として機能することが重要である。こうした点を踏まえ、社内チャットにカスハラ連絡用のグループを構築する企業も存在する。デジタルの場を利用し、時間と場所を選ぶことなく、従業員のSOSに応える窓口として機能している。
ステップ3 事案相談後の対応がキーポイント
カスハラ事案は相談がゴールではなく、その先の解決策こそが最も重要となる。すなわち、カスハラ事案相談後の「迅速かつ適切な対応」である。また、顧客からのクレームが発生していることは事実であり、その事案がカスハラなのか、それともクレームなのか、その判断を行い、対応に当たることを忘れてはならない。ともすると、この項目が方針策定、相談窓口の整備よりも難度の高い対策づくりともいえる。
行うべきは概ね以下の4つのポイントである。
1. 事案に接した従業員の安全確保とメンタルケア
報告を受けたら、まずは従業員をストレスから完全に切り離し、担当変更を実施。従業員が精神的ショックを受けている場合、産業カウンセラーなどの面談や休暇の付与を行う
2. 事実関係の情報取得
当事者の従業員、事案を目撃した従業員から事情を聴取。また、通話記録や防犯カメラ映像、メール・チャットなどのエビデンスを保存
3. カスハラ該当性の「組織的判断」
ポイント2 の結果から、その事案が実際にカスハラか、それともクレームかの判断を決定
4. 決定に沿った迅速な対応
クレームと判断した場合、クレーム対応を実施。ただし、威嚇などのカスハラが認められた場合は、顧客に警告と注意を勧告。これ以上の暴言や不当な要求には一切応じられないという旨を書面(内容証明郵便など)などで正式に通知。取引企業の場合は、担当者の変更を要請

カスハラによる損失の目を摘むための対策として

企業はカスハラ対策と仕組みづくりを行うに当たり、リソースの投下が必要である。しかしながら、対策を講じずにカスハラを放置すると、損失が発生する可能性が否定できない。適切な対策が講じられていない現場で対応する従業員は疲弊し、従業員が健康に支障をきたした場合、休職や離職に追い込まれる可能性もある。そうしたリスクの芽を摘むことがカスハラ対策の目的だ。
また、自動車整備はこの数十年で顧客満足度向上が大きなテーマとなってきた。しかしながら、あまりにも過度なCSの追及で、顧客の要求度は高くなっていったことは否めない。今回のカスハラ対策義務化で、「お客様は神様」から脱却する企業が増えていることから、自動車整備の対顧客のサービスの在り方にも一考の余地があるだろう。
(記事の前編はこちら)