アメリカ自動車業界を揺るがす「修理する権利」と2つの対立法案を解説

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木下 慶亮
アメリカ自動車業界を揺るがす「修理する権利」と2つの対立法案を解説

 自動車の「修理する権利(Right to Repair)」を巡る議論が、アメリカで新たな局面を迎えている。
 6月4日、トランプ大統領とGM(ゼネラルモーターズ)のCEO、フォード幹部及び自動車イノベーション協会(以下、AAI)らによる重要会談が行われた。議題の中心は、カーメーカー側が消費者の自己修理を制限する連邦法案を求めている点である。


 本記事では、自動車業界の動向や法規制について、同会談の背景、連邦議会で対立する2つの法案、そして根底にあるアメリカ文化について触れる。

なぜ今、カーメーカーは大統領に直訴したのか?

 今回の会談の最大の目的は、自動車メーカーや業界団体が「修理する権利」の拡大に歯止めをかける連邦法の成立を要請すること。メーカー側が焦りを募らせている背景には、各州で相次いで独自のルールが可決されている現状がある。

【メーカー側が直面している課題と背景】

・州法による権利拡大の連鎖:2020年にマサチューセッツ州で、住民投票により車の診断データだけでなくインターネット経由で送信される無線データ(OTA)へのアクセス権へのアクセス権を修理業者に認める法案が可決。2023年にはメイン州でも84%の賛成多数で同種の法案が可決された。


・連邦法による「上書き」狙い:この事態を防ぐため、メーカー側は各州のルールを無効化し、全米統一でメーカーの管理権限を強める「連邦法」の成立に向けた活動をワシントンD.C.で激化させている。


 州ごとに異なるデータ開示ルールに対応するとカーメーカー側の多大なコスト増に加え、メーカーの純正パーツ販売や正規ディーラーでの修理機会(利益)が奪われる懸念もある

連邦議会で激突する2つの法案

 連邦議会ではこの問題について真っ向から対立する2つの法案が提出されている。大統領が先の発言で言及したのは、2つ目のメーカー側の求める法案について。


① REPAIR Act【修理する権利法案】

 主に消費者団体や車の修理工場(ディーラー系列の内製工場以外)、Auto Care Association:オートケア協会(アメリカ拠点の自動車アフターマーケット業界団体)など、アフターパーツメーカーが支持しており、消費者と自動車整備事業者がディーラーと全く同じデータやツール、ソフトウェアにアクセスできる権利を法的に保障する法案です。特に最新車から出る“無線データ(OTA)”の所有権はカーオーナーにあるとし、カーメーカー側のデータ独占を禁じている。


② Safety as First Emphasis(SAFE) Repair Act【安全修理法案】

 “修理する権利”法案に対するメーカー側の対案であり、カーメーカーや正規ディーラー、一部の修理業者団体が支持している。一見すると“修理の権利”を認めるような名称だが実態はカーメーカーの管理権限を強化する法案となっている。自動車整備事業者に修理情報は出すが、サイバーセキュリティーや安全性の観点から、無線データへのアクセスは制限し、修理はメーカーが定めた厳格な手順に従わなければならないとしている。


 今回の自動車における“修理する権利”を巡る戦いは、最近始まったものではなく、マサチューセッツ州での住民投票に端を発して10年以上続いてきたバトルがその舞台をワシントンD.C.に移したもの。ソフトウェアへと修理技術の軸が変わりつつある過渡期での陣取り合戦に近い。

 背景には、アメリカの”自分のものは自分で直す”という文化や他人に頼らず自分の財産は自分の手で管理・維持することが”一人前の大人”とする意識も影響している。特に車に関しては、週末にガレージなどで親と子どもが一緒にオイル交換をしたり、古いアメ車をレストアする光景は、アメリカの典型的なファミリー像として映画などでもよく描かれる。

また、合衆国内のインフラとしてDIY市場が充実しているのもこういった論争が起こる火種になっている。日本とは比較にならないほど、アメリカの自動車パーツの小売市場は大きい。AutoZone(オートゾーン)、O’Reilly Auto Parts(オライリー)などの巨大チェーン店が全米のあらゆる街にある。アメリカ人にとっては、“修理する権利”を奪われることは、カーメーカーによって自分たちの文化が奪われようとしていると感じていることにも通じるのだろう。