「稼働最大化」へシフトする業界の現在地とジャパントラックショー2026 部品の仕入れから一気通貫を実現、DXの先のAI活用で人手不足解消のビジネスモデルを模索 MSR2026年6月号特集⑥

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泉山 大(プロジェクトD)
「稼働最大化」へシフトする業界の現在地とジャパントラックショー2026 部品の仕入れから一気通貫を実現、DXの先のAI活用で人手不足解消のビジネスモデルを模索 MSR2026年6月号特集⑥

車両総重量11トン以上の大型車から、ダンプカーに大型特殊車両、そして建機や移動式クレーンに至るまで、多様な車種の自動車整備を実践するツカサ工業(長野県大町市)は、整備業界をまさにけん引するトップランナーともいえる存在である。

ツカサ工業本社外観

同社の佐藤憲司社長が「物流はもちろん、働く車は地域のインフラには欠かせない車両であり、我々はそのインフラを支えている使命と自負がある」というように、整備士、経営者のメンタリティーと技術・設備は小型の整備環境とは大きく異なっている。

また、建機の架装や作業装置、上部旋回体などは自動車整備と異なる資格と技術力が必要であり、国土交通省の道路運送車両法のみならず、厚生労働省や経済産業省などの法令に基づいた整備や検査が求められる。大型車整備にはこれら法令を横断する知識と技術力が不可欠だ。

もしも、働く車が思わぬ故障などで休車を余儀なくされた場合、住民生活に与える影響は決して小さくはない。大型車整備のメンテナンススケジュールはそうした制約の上で成り立っている。

2024年の物流問題以降、大型車整備を巡る環境に「変化が生じた」と佐藤社長は語る。その背景には働き方改革の進展が関係している。ワークライフバランスが促進されたことで、車両を保有する企業や組織の休日が増えた。

これに伴い、ツカサ工業のメンテナンススケジュールに余裕が出てきたという。しかし、一方で部品のデリバリーが従来と比べて、スローダウンした。部品商業界でも、働き方改革の影響や人材不足が顕在化し、配送オペレーションを改革。

これまでは午前中にオーダーすれば午後にはデリバリーされてきた部品が、近ごろは翌日になるという。これにより、大型車整備のメンテナンススケジュールは変化を余儀なくされている。

佐藤社長は「常に商流は変わっており、大型車整備はスピード感よりも、確実性が求められる時代になった」との認識を語る。

ツカサ工業では、DXという言葉がまだ一般的ではなかった時分より、いち早く経営に取り入れて、業務のデジタル化を推進してきた。自動車保有関係手続のワンストップサービス(OSS)の導入に伴う、保安基準適合証の電子化では、制度開始初日のシステム稼働直後から対応をスタート。

また2020年4月の特定整備制度開始に合わせ、認証の変更申請をいち早く行うなど、業界のパイオニア的存在としても知られるようになった。その年、同社はデジタル専門のスタッフを雇用して、ICT事業部を設置。業務のデジタル化をさらに加速させた。

スキャンツールは1人1台を推進中(左上)、ダンプ自重計検査所を設置し、検査を内製化(右上)、ICT事業部は松本市内に設置(左下)、幅広い車種の特定自主検査に対応。ワンストップを実現する上でDXが不可欠(右下)

ICT(Information and Communication Technology)とは情報通信技術のことであるが、同社は、整備士全員にiPhoneを支給し、通信・伝達の面でも効率化を図っている。

会社共通の電話帳をインストールし、インターネット経由で電話機能を利用する仕組み(クラウドPBX)に変更することで、代表電話にかかってきた電話や内線もiPhoneから通話が可能である。事務所に戻って電話に出るよりも現場から通話ができることで、効率化を図った。

「人手不足の解消は、人材を新たに雇用するのではなく、そもそもの仕組みをDXし、日常業務を効率化させることで、人が行う本来業務を充実させること」(佐藤社長)。

また、近年同社は、整備業向けシステムをブラウザーで動くクラウド型に刷新した。これにより、どこにいても業務の状況がリアルタイムで把握でき、整備作業の進捗から履歴、電子保適の確認が可能となった。

そして、現場のペーパーレス化を進め、整備士全員が作業内容を直接整備業システムに入力する仕組み
にし、整備士の転記作業を削減させた。ペーパーレス化はまだ道半ばだが、給与明細なども電子化しており、現在はメールで各社員に送信している。

さらに、ツカサ工業は新たな取り組みとして、約2年前に地域部品商の松本自動車部品の全株式を取得し、グループ化を図った。これにより、自動車部品のデリバリーは円滑になるとともに、スピード感を高めることで、出庫までのスケジュールの迅速化が実現した。

グループ会社化した松本自動車部品本社

また、両社とも同じ会社のシステムを利用しているため、いずれ部品の受発注をシステム上でできるよう取り組みを行っている。

「整備士が部品商システムの在庫を見に行き、適合する部品をオンライン購入、つまりカートで買うことができる。納品書などもダウンロードで完了できるので、部品の受発注もDXでさらに効率化が実現する」(佐藤社長)。

ツカサ工業が長年目指してきた部品の仕入れから出庫までを一気通貫で実現する整備のスマート化である。

今後は、松本自動車部品と連携を取りながら、AIを活用したユーザーへの整備提案の実現を目指す。これは、ツカサ工業に入庫した車両の整備履歴の全データと自動車メーカーの定期交換部品のデータ、そして入庫する車両の走行距離を読み込ませることで、独自の整備提案書を作成。

部品の受発注を効率化し、メンテナンススケジュールの最適化を図る計画である。AI診断と実診断は約8
割の精度で実現できると佐藤社長は見込む。

「部品商をグループ化したことで、入庫から出庫までのスケジューリングがスマート化する。部品商を主体として整備工場をコントロールできるビジネスモデルを構築し、整備業界の人材不足問題を解消するヒントを提示したい」と佐藤社長。

現在、松本自動車部品にはツカサ工業の整備士を派遣し、整備士の目線で部品供給を行う体制を進めている。

「部品商がビッグデータを活用し、AIが予測できない部分を整備士が補完する形でリードしていけば、整備工場のメンテナンススケジュールを変革できるとともに、部品仕入れの分野でも生産調整を可能にするなど、時短と生産効率の向上につながる可能性がある。DXだけでなく、GX(グリーントランスフォーメーション)も両立できる」(佐藤社長)。

大型車整備は、小型の整備よりも人材不足が顕著であるとともに、設備投資、与信管理などの面で求められる経営スキルは極めてシビアである。

そうした大型車整備、ひいては自動車整備の課題解決に向け、ツカサ工業グループが展開する、地域部品商を核とした新たなビジネスモデルに注目したい。

佐藤社長がパーソナリティーを務めるラジオ番組がスタート