見ても分からない、そんな場面が増えていないか
「電子とかデジタルって、正直ちょっと苦手意識があるんだよな……」
「今まで、デジタルの研修はあまり受けてこなかったな……」
現場で、こうした声を聞くことは少なくありません。ただ、その一方で、「これまでと同じように点検しているのに原因にたどり着けない」、「経験的に当たりをつけても外れてしまう」といった違和感を覚えることも増えていないでしょうか。
よくあるケースですが、たとえば、警告灯が点灯して入庫した車両。まずは思い当たる個所から順に確認する。これまでは、その進め方で多くのケースが解決できていました。しかし今は、点検項目は一通り確認したのに決定打が出ない、別の系統を疑っても手応えがない、といった“詰まり”が起きることがあります。
やり方を間違えたわけではない。むしろ、これまで通りに進めているはずです。それでもうまくいかない。だとすれば、変わったのは「やり方」ではなく、求められているもの自体――デジタル化によって前提が変わってきているのかもしれません。
必要なスキルの“中身” が変わっている
こうした違和感の背景にある違いを整理したのが図1です。これまでの整備は、エンジンや機械系といったアナログ領域の構造を深く理解し、経験に基づいて的確に判断する力によって支えられてきました。そして実際に多くの不具合を解決してきました。

一方で現在は、車両のデジタル化が進んだことで、その前提だけでは対応しきれない場面が出てきています。図1のように、求められるスキルの比重が変わっているのです。これまで中心だった経験に対して、現在は構造や状態を理解するための知識が前提になりつつあります。
ここでいう構造知識とは、単なる部品知識ではなく、電子制御システムの状態を理解することを指します。どのセンサーの情報がどのように処理され、どの制御に影響しているのか。どの条件で正常と判断され、どの条件で異常と判断されるのか。そうした“見えない状態” を頭の中でつなげていくための知識です。
この違いは、単に知識が増えたという話ではありません。どの順番で確認するか、どこを優先するかといった、診断の進め方そのものに影響を与えています。
なぜ「当たりがつかない」のか
では、なぜそのようなことが起きるのでしょうか。
図2のように、これまでの整備では「なぜ?」を繰り返すことで原因に近づくことができました。現象と原因の距離が近いからです。そのためベテランの整備士は、修理書を見なくても経験によって思いついた点検項目に優先順位をつけ、効率よく原因究明ができたことが多かったのです。

しかし現在は、ADAS等の電子制御の不具合において、この流れが途中で止まることがあります。たとえば、あるセンサーの異常を疑っても、その信号がどの制御にどう影響しているかが見えないと、次にどこを確認すべきか判断できません。
電子制御では、現象から原因までの距離が広がっています。実は、その間の状態は整備解説書などに記載されています。ただし、その記載内容を読み解くための基礎知識がないと、必要な情報をつなげて理解することができません。その結果、「次に何を確認すべきか」が見えなくなり、診断が止まってしまうのです。
前提が変わっている
ここまで見てきたように、やり方が間違っているわけではありません。これまで培ってきた経験や判断力が不足しているわけでもありません。それでもうまくいかないのは、デジタル化によって前提が変わっているからです。
これまでは、見える現象と経験を手がかりに判断できていた領域が、現在では見えない状態を前提に考える領域へと変わっています。言い換えれば、「見れば分かる」から「理解していないと分からない」へと変わっているのです。
まずは、この違いに気づくことが重要なのです。
次回予告
次回は、こうした変化の中で、なぜ同じ電子制御の不具合でも、すぐに分かるものと、どこから手を付ければよいか分からないものに分かれるのかを整理していきます。
その違いは、決して経験の差だけではありません。どのような故障が難しくなるのか、その見分け方を考えていきます。
(筆者プロフィール)
佐野和昭
東北大学 工学部卒業後、トヨタ自動車へ入社。アフターサービス部門に配属され、品質管理からサービス企画・改善、部品のマーケティングまで幅広い分野を担当。その後、自研センターの取締役に就任。新しいアルミ修理技法などの修理技術開発を担当し、機械・工具メーカーなどと意見を交わした。現在は、車体整備をはじめとした整備関連業界において複数社の顧問を務めると同時に、セミナー講師やコンサルタントとしても活躍中。