「社員を大事にする会社にしたい」。そう考える経営者は多い。労働環境を整え、福利厚生を充実させ、心理的安全性を高める。もちろん、これらは重要な取り組みだ。
一方で、「社員を大事にする」という意味を取り違えているケースも少なくない。社員になるべく負担をかけない。厳しい仕事は任せない。失敗しそうな仕事は上司が代わりにやる。叱ることを避け、できるだけ優しく接する。
一見すると、社員思いの会社に見えるが、これでは社員を大事にしているとは言えない。むしろ、その人が成長する機会を奪ってしまっているのではなかろうか。
ブラック企業が許されないのは当然だ。だからといって、その反対側にある「何でも優しくする会社」が理想というわけではない。
「ああ、ミスしたのか。大丈夫。こちらで何とかしておくから」。
「この仕事は少し難しいから、無理にやらなくていいよ」。
こうした対応を続ければ、本人は失敗しなくて済む。しかし、いつまでたっても難しい仕事を乗り越える経験は得られない。
社員は、会社にとって単なる労働力ではない。社員とは「社会からの預かりもの」だと考えたい。会社には、その預かりものを大切に扱う責任がある。そして、大切に扱うということは、単に優しくすることではない。その人を成長させ、より良い状態で社会に送り出せる人材にしていくことまで含まれる。
マズローの5段階欲求説では、人間の欲求は、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、そして自己実現欲求へと段階的に高まっていくとされる。最後にある自己実現欲求とは、「自分にしかできないことがしたい」、「もっと成長したい」という欲求だ。
人は本来、成長したい生き物である。だからこそ、本当に人を大事にする会社は、その成長に向き合わなければならない。
時には負荷を与える必要もある。難しい仕事を任せることも必要だ。課題を与え、期限を決め、できるまで向き合うことも必要になる。場合によっては厳しく接しなければならない。それは社員を追い込むためではない。成長の機会をつくるためだ。
子どもの算数ドリルを親が代わりにやれば、宿題は終わる。しかし、子どもの計算力が伸びることはない。それと同じだ。部下が苦労しているからといって、上司が肩代わりすれば、仕事は早く終わるかもしれない。しかし、部下の成長は止まる。
逆に、適切な負荷を与え、自分で考えさせ、挑戦させ、失敗から学ばせることで、人は大きく成長する。そして社員は、自分が成長できる会社には残りたいと思う。反対に、「この会社にいても成長できない」と感じれば、待遇が悪くなくても離れていく。
人を大事にするとは、甘やかすことではない。会社には、社員を成長させる責任がある。それこそが、人を大事にする経営なのだ。
(筆者プロフィール)
關 友信 株式会社チームエル
取締役CMO。2006年に愛車広場カーリンクのチェーン展開開始と同時に、カーリンク基礎研修の開発に着手、その後も直営店の出張査定センターのマネジメントやディーラーコンサルティングなど、幅広く様々な仕事を経験、2014年からはCaSSの会員制度を立ち上げ、会員向けのサービスや企画を開発。