負債6千万円からのV字回復
高品質のサービス・製品で顧客をグリップ
オイル主導型の集客モデル

セーコー自動車工業(東京都立川市)は1966年に創業。多摩地域を東西に貫く五日市街道と、南北を結びモノレールが上を走る芋窪街道が交わる、好アクセスな土地に工場を構える。現在3代目となる島田義久氏が代表取締役を務めるが、就任当時の負債は6千万円以上あった。
経営危機を乗り越え今や年間車検台数2,800台超の同社。そのビジネスモデルの要諦を探る。
大苦境からのスタート

島田社長は元はディーラーの営業職としてキャリアをスタートさせ、32年前に社員として同社に入社した。入社後まもなく、同社は車検チェーンに加盟。そして販売だけでなく整備の受け付けも担当し、改革の旗振り役を担った。
当時の社風は、従業員の挨拶もままならない旧態依然としたものであり、その改善に面白さを見いだしていったという。しかし、13年前に先代から事業を引き継いだ時、会社は深刻な経営不振に陥っていた。実に6,000万円もの負債を抱えた赤字経営からのスタートだった。
島田社長は「今だったら絶対にやっていない」と当時を振り返る。承継後3年で資金繰りは完全に行き詰まり、会社を売却しようと知人の経営者に相談を持ちかけるまでに追い詰められた。
そこで島田社長は企業の持続的な成長を最優先課題とし、資本構成の抜本的な見直しに着手した。従来のコスト構造を精査し、経営資源の最適化を図るべく、全株式を取得。これにより、迅速な意思決定と責任ある経営体制が名実ともに確立されることとなった。
そこから、損益分岐点をクリアするための抜本的な改革が始まった。
確かな品質でオイルと自社のファンを獲得

地域トップクラスの売り上げを誇る
社長就任後、島田社長はオーナーズ・サークルの会合に出席するようになった。当時、社内では利益率を重視し、安価なオイルを主に扱っていた。
しかし、会合の席で、ある人物から「使用後のオイルがきれいなのは、良いオイルとは言えない。エンジン内の汚れが取れていないということではないか」という指摘を受ける。
この一言にハッとさせられた島田社長は考えを改めた。それまでよりグレードの高いブランドへ一本化し、年間販売額の基準をクリアして認定されるプロショップを目指すことを決意。この転換が同社のV字回復のきっかけとなった。
特筆すべきはその入り口戦略である。近隣にコイン洗車場が少ないことに着目し、手洗い洗車を500円で開始した。洗車を「フロントエンド商品」と位置付け、集客の起爆剤として何度でも同じ値段で提供。島田社長は「何回もこの値段で洗車を利用すると、それ以外にもお願いしようという気持ちになる」と振り返る。
こうして顧客が自然にオイル交換へ向かい、その性能を体感できる導線を構築した。「一度その性能の高さを実感してもらえれば、自ずとリピーターとなる。薄利多売ではなく高品質な製品を提供することで、オイルと自社のファンを着実に増やしていった」。
この戦略と絡めて、従来のチラシ中心の集客からWEBへと広告宣伝費を転換。要所への野立て看板やバス広告も活用しながら、地域への認知度向上に努めた。そして広告で得た社会との接点から、気軽に利用しやすい価格の手洗い洗車で機会を増幅。
さらにオイル交換で自社顧客としてグリップする流れを構築した。「この段階まで漕ぎ着けると、顧客の車への整備や車検提案による長期顧客化を期待できる」と島田社長は語る。

(価格は取材した4月時点のもの)
そして価格設定も工夫した。量り売りではなく「軽自動車〇〇円」といった具合に、車種ごとに1台当たりの料金を明示。これにより、若手の受付スタッフでも迷わず案内でき、顧客にとっても分かりやすい料金体系を実現した。
また、車検や点検の入庫時には顧客に立ち会ってもらい、メカニックが直接車両の状態を説明した。「つなぎを着たメカニックが点検結果を見せながら説明したほうが説得力があり、安心感につながる」。この地道なコミュニケーションの積み重ねにより顧客からの信頼を獲得、オイルをはじめとする各種の消耗品の販売増へとつなげた。
これらの努力が実り、同社はプロショップ認定を取得。今や基準額の倍近い年間600~700万円分のオイルを仕入れて売り上げる、トップクラスの販売店となった。
持続的成長を支える人材育成

業界全体が深刻な整備士不足に悩む中、同社は独自の採用戦略でこの課題を乗り越えている。その答えは「未経験者のアルバイト採用」だ。島田社長は「車好きで車を自分でいじりたい」という熱意ある若者に対し、経験を問わず門戸を開いている。
即戦力を求める多くの工場が敬遠する未経験者採用に、あえて活路を見いだしたのだ。この方針により、同社には整備士を志す若者が遠方からも集まる。入社後は現場でのOJTを通じて実践的な技術を習得し、1年も経てば車検整備をこなせるまでに成長するという。
現在、19歳の若者や大学生もアルバイトとして活躍しており、若い人材がさらに若い人材を呼び込む好循環が生まれている。
組織運営においても、全員参加の意識を徹底している。毎朝の朝礼では、前日の売り上げや粗利といった経営数値を担当者が持ち回りで発表。全社員が数字への意識を高める仕組みだ。
加えて、メカニックが受け付け業務を、フロントスタッフが整備体験を行うなど、職種の垣根を越えた相互理解を深める研修もしている。こうした取り組みが、少数精鋭ながら高い生産性を生み出す原動力となっている。

オイル交換により入庫が多く、経験が培われる
そして、こうした人材育成の場面でもオイルは大きな軸となる。「オイル交換に限れば、作業の難易度は高くなく、作業時間もコンパクト。先輩から後輩へのOJTの題材としてうってつけだ」。同社の社員はオイル交換の間にも点検作業を進め、要整備個所に目を光らせる。
その姿を後輩社員がついて回り、不調個所の事例や、整備作業の組み立て方を学ぶことができるという。「車検や一般整備以外にも多くの車両に触れる機会を作ることで、経験と自信になる。また顧客が気づかない不調にも気遣う目を養える。オイル交換は重要な育成手段だ」。
盤石な経営で次代へ
今後の目標について島田社長は、車検3,000台といった短期的な数値目標に加え、より長期的な視座を語る。「約10年後には、快く後進に『自分が代表をやりますよ』と言ってもらえる会社にするのが目標だ」。社員に安心して未来を託せる、盤石な経営基盤を築き上げることこそが最大の目標だ。
オイル交換という1つのサービスを起点に顧客との関係を深め、未経験者をプロに育てる組織を作り上げた同社の歩みは、新たな事業を模索する多くの事業者にとって、確かな道筋を示している。