“総合力” の中で輝くデントリペア
顧客に寄り添う理想の整備提案
人と技術で勝つ、地方工場の挑戦

「縁ある人を幸せにする」を理念に掲げる群馬県高崎市の整備工場、ENXIA(エンシア/乾自動車整備工場、群馬県高崎市)。
先日の工場ルポルタージュでは、SNSやカスタムで若者需要を掴み地域密着で事業を拡大する姿を伝えた。
今回スポットを当てるのは未経験から技術を磨いた山中督教専務が牽引するデントリペア部門。トータルカーショップの中での“デントリペア” の在り方、その理想の事業モデルを追っていく。
No.2が担うデントリペア事業

専務 山中 督教 氏
同社がデントリペア事業を本格的に開始したのは約2年前。代表の乾雅詞氏が前職のディーラーから、ひょう害修理の相談を受けていたことが背景にある。鈑金塗装では作業個所によっては事故車扱いになり資産価値が下がる懸念や、再塗装による色の差異を気にする顧客の課題を解決する手段として、デントリペアの可能性に着目した。
この新事業を牽引するのが山中督教専務だ。元々は電気工事士として別会社に務め独立を目指していた同氏は乾代表の誘いを受けて自動車業界へ転身。「代表の妹と婚約しており、同社に入ればより家族との時間がとれる環境が手に入る」と考え、即断即決で入社を決めた。

現在は代表のマインドを一身に受け止め、同社の専務となり事業を根幹から支える。技術習得にあたっては、一般的なスクールではなく、実務を行う店舗での6ヵ月間にわたる武者修行を選択。百聞は一見に如かずの精神で、現場叩き上げの技術を磨いた。
車の知識ゼロからのスタートだったが、山中氏は「知らないからこそ吸収率が高い。こだわりなく人の話を聞き、すべてを自分の力にしてきた」と振り返る。その結果、わずか2年間でドアパンチからひょう害による大規模な損傷まで、150台以上の車両を手掛けるまでに成長した。
現在、同事業はひょう害などの保険修理で1 台当たり100万円以上の利益を生み出すこともあるなど、高い収益性を誇る。ドアパンチのような小さな凹みでも1万5千円~3万円程度で対応し、安定した収益源となった。


その高い技術力と信頼性は、乾代表がこれまでに築いてきたネットワークを基盤に、現在では8社の
ディーラーから専属で仕事を受注。さらに出張デントも請け負うなど、積み上げた信頼が大きな実りをつけた。
“総合力” こそが最大の差別化
近年、デントリペア市場は参入者が増え、競争が激化している。その中でエンシアが大きな優位性を持つのは同社がデントリペアの専門店ではなく、自動車に関するあらゆるサービスをワンストップで提
供できるトータルカーショップだからだ。
第一に、整備士資格を持つプロフェッショナルが複数人在籍している点が挙げられる。デントリペアには、内張りの取り外しやセンサー類の脱着など、整備の知識が不可欠だ。
資格を持たない作業者によるトラブルも市場で見受けられる中、同社では3 人の整備士が正確かつ安全に作業を行うため、仕上がりの品質が担保される。これが大手ディーラーから全幅の信頼を寄せられる要因となっている。

第二に、顧客にとって最適な選択肢を提案できる「総合提案力」である。デントリペア専門店であれば同手法での修理が前提となるが、同社では車両の状態や顧客のライフプランを丁寧にヒアリングした上で、デントリペア、鈑金塗装、車両代替といった複数の選択肢を提示する。
乾代表は「デントだけを推さずに、顧客の幸せを考えて最適な提案ができるのが強み。車販まで自社で手がけているからこそ、保険金を活用した乗り換えが顧客のメリットになる場合もある」と説明する。
さらに、デントリペア後のコーティング再施工までも自社で完結できるため、外注コストを大幅に削減し、スピーディーな納車を実現。販売、整備、鈑金塗装、保険、カスタム、レンタカー、そして事故対応まで、車のライフサイクルすべてをカバーする体制が、他社にはない付加価値を生み出している。
「人を幸せにする」理念が組織を動かす

同社の強さを支えているのは、事業の多角性だけではない。その根底には代表と専務の強固な信頼関係と、全社員に浸透する明確な理念がある。山中氏は自らの目標を「関東一、人を幸せにするデントリペア職人になること」と掲げる。
これは単なる技術的な日本一を目指すのでなく同社に関わるすべての人の幸福を追求するという意志の表れだ。「技術がうまい人は多い。だが自分は来ていただいた人が自分のファンになり、この会社が大好きになるような接客を心がけている。顧客の未来が明るくなるような行動を取りたい」と山中氏は語る。
そのため、修理の相談を受けた際にはアイスブレイクから入り、顧客の人柄や車の用途を深く理解することから始める。この対話を通じて、顧客自身も気づいていない潜在的なニーズを掘り起こし、最善の解決策を導き出している。
このマインドは、乾代表が感銘を受けた研修プログラムで培われた側面も大きい。「成功は技術である」という教えを日々の業務に落とし込んでいる。
この姿勢は社内のマネジメントにも活かされている。乾代表が他社の役員業務などで不在にする時間が増える中、山中氏は専務として、スタッフ一人ひとりの業務管理からマインドセットのサポートまでを担う。
「最高のNo.2になる」という決意の下、代表と同じ視座で組織を牽引。この2人の一枚岩の関係性が、エンシアという組織の強力なエンジンとなっている。

100年続く企業へ、挑戦は続く
同社の視線は、自社の成長だけにとどまらない。現在は群馬県と連携し、新たな地域活性化策に向けたプロジェクトを推進している。JDM(Japanese Domestic Market)と呼ばれる日本の自動車文化は世界的に高い人気を誇る。
特に群馬県は、人気漫画『頭文字D』の舞台となったことから、世界中の自動車ファンから熱い視線が注がれている。
この文化を世界へ発信するため、現在は日本のドリフト文化を伝える活動をはじめ、地域創生に向けて多くの事業を展開している。乾代表は「これまで実業を手がけてきた経験を社会に還元したい。群馬を盛り上げることは、自分にしかできない使命だと思っている」と熱意を語る。
創業から62年を経て、エンシアは今、第二の創業期ともいえる大きな変革の時を迎えている。目指すのは「100年続く企業」、そして「15年後に年商100億円企業」という明確な目標だ。
乾代表は、「会社を大きくすることは、社員や関係者、縁あるすべての人を幸せにすることにつながる。そのためには挑戦し続けなければならない」と語る。その言葉通り、デントリペアという一つの事業を起点に組織を強化し、地域を巻き込み、そして世界へと羽ばたこうとしている。
デントリペア事業も地域創生プロジェクトも、その根底にあるのは「縁ある人を幸せにする」という揺るぎない理念だ。