前回に引き続き、自動車整備業界における成長戦略としてのM&Aをテーマにお届けします。第2回は、関東圏で80年以上の歴史を持つ電装品卸K社の事例をご紹介します。
グループで勝つための布石
K社は自動車電装品やリビルト品を扱う卸売業として長年事業を展開してきました。現社長がM&Aに踏み切った理由は明確でした。「グループとして成長する中で、カバーできるエリアや顧客への提案の幅をもっと広げたいと考えました」。
顧客である整備工場の困りごとに応えるためには、部品供給だけでなく実際の整備現場を持つことが重要だと判断。業界の変化スピードに対応するには、M&Aが最も合理的だったのです。
「この規模感」が決め手だった
K社の社長がM&Aの相手として選んだのは、関東圏で乗用車中心の整備事業を展開する企業でした。大き過ぎず小さ過ぎず、グループの既存事業と補完関係が築ける規模感。「できること」を増やして顧客価値を高めるという明確な狙いがありました。
驚異の1ヵ月成約、その理由
相手企業の経営者と初めて会ってからわずか1カ月で株式譲渡が決まったのは異例です。通常、M&Aは交渉開始から成約まで3 ヵ月以上かかります。「面談を重ねていく中で、会社を良くしていきたいという想いが一致しました。これが何より大きかった」。
K社社長は過去のM&A経験から教訓を得ていました。「数字だけ見て判断したケースもありましたが、後から苦労することもありました。相手の経営者と直接話して、どんな想いで会社を経営してきたか、従業員をどう大切にしてきたかを確認することが重要だと学びました」。
従業員の不安、どう乗り越えるか
M&Aで最も神経を使うのが従業員への対応です。「既存の社員に残ってもらい、会社が発展していくための良い形にすることを重視しました」。K社が徹底したのは、待遇面の維持だけでなく、「今よりもっと良くなる」という未来を示すことでした。
設備投資、教育体制の強化、事業拡大によるやりがいの創出を具体的に伝えたのです。
統合後が本当のスタート
「M&Aは契約書にサインして終わりではない。むしろそこからが本当のスタート」とK社社長は強調します。
K社が統合後に取り組んだのは、グループのスケールメリットを最大限に生かす戦略でした。グループ内に輸入車パーツを扱う企業があることを生かし、譲り受けた整備工場でも輸入車整備や車両販売に着手。「輸入車を扱うことで整備単価も上がり、新規顧客も増えました」。
「想いを考えて行動し、形にすることは非常に難しい。5年、10年かけて会社がどう変われるかを見据えなければならない」。長期的な視点での統合が重要なのです。
変革期だからこそのM&A
自動車業界は今、大きな変革期を迎えています。EV化、少子化による市場縮小、深刻な人材不足。課題は山積みです。 M&Aはきれいごとでは済みません。想定外の問題、社内の反発、統合の苦労……さまざまなハードルが待ち構えています。
それでもK社社長がM&Aを選び続けるのは、それが業界を守り、従業員を守り、顧客により良いサービスを提供する手段だと信じているからです。こうした取り組みが、業界の未来を切り拓いていきます。
(筆者プロフィール)
長谷川章義 株式会社フォーバル
信販会社の新規立ち上げに携わった後、独立して国内外に法人を2社設立。約9年間にわたり、経営者としてEC事業、医療事業、自動車事業などを展開。現在はフォーバルの事業承継支援部で、中堅・中小企業の次の一手をサポートしている。