新時代工場のプラスワン・ビジネス 洗車場経営事例・A PIT AUTOBACS SHINONOME MSR2026年7月号特集③

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ライター写真
武井 宏樹
新時代工場のプラスワン・ビジネス 洗車場経営事例・A PIT AUTOBACS SHINONOME MSR2026年7月号特集③
同社外観

オートバックセブンが運営するコンセプトショップ・A PIT AUTOBACS SHINONOME(東京都江東区)、その洗車場事業が今、躍進している。利用台数は前年同期比30%増、売上高が昨年の1.6倍を記録するという驚異的な実績を達成。省力化と高単価化を両立させた、新たなビジネスの可能性を追っていく。

オートバックスセブン A PIT 企画推進部 
岡田 雄介 氏

A PIT AUTOBACSでは以前からセルフ洗車場を運営していた。しかし、旧来の設備は多くの課題を抱えていたという。その中でも最大の課題は、現金、それも硬貨しか受け付けない決済システムにあった。

洗車場の利用者はあらかじめ硬貨を用意するか、店舗の営業時間内にレジで両替する必要があり、特に24時間営業であるにもかかわらず、夜間や早朝の利用には大きな制約が生じていたという。企画推進部の岡田雄介氏は「夜間の売り上げがどうしてもそこでストップがかかる時があった」と当時を振り返る。

また、両替対応や1日に複数回にも及ぶ集金業務は、店舗スタッフにとって大きな負担となっていた。さらに提供できる洗車コースが6種類に限られていたことも、機会損失の一因だった。同店は地域柄、高級車の来店比率が高いという特性を持つ。

そのため、よりこだわりを持つ顧客層のニーズに充分に応えられていなかった。設備の老朽化も進んでおり、事業モデルそのものの見直しが迫られていた。

昨年導入したセルフ洗車機

こうした課題を解決するため、同店は最新型洗車システムを導入し、全面的なリニューアルに踏み切った。その戦略の核は「フルキャッシュレス化による完全無人運営」と「メニュー拡充による高付加
価値化」の2点である。

まず、決済システムをクレジットカードや電子マネー、QRコード決済などに対応したフルキャッシュレスに移行。これにより、利用者は時間帯を問わず両替の手間なくサービスを利用できるようになり、夜間・早朝の需要を完全に取り込むことが可能となった。

コイン挿入口を取り除き、完全にキャッシュレス化している

また、店舗側も両替や集金の業務から解放され、大幅な省力化を実現した。法人利用者の経費精算ニーズに応えるため、レシートプリンターも設置し、利便性を高めている。

そして洗車メニューを拡充し、9種類まで増加。ガラス被膜を形成するコーティングといったハイグレードのメニューを追加した。これは、既存の顧客層である高級車オーナーの「より良い状態で車を維持したい」という需要に的確に応えるものであり、客単価の向上に直結する戦略であった。

リニューアル後の成果は目覚ましく、利用台数は前年同期比130%、売上高は1.6倍に達した。

洗車場。利用後はすぐ後ろにある立体駐車場でも拭き上げができる

セルフ洗車という業態を「顧客体験」として捉え直している点も重要だ。同店では、スタッフによる手洗い洗車サービスも提供しているが、それとは別にセルフ洗車を「顧客のこだわりで、自分自身でやっていただく」ための場と位置付けている。

豊富な品ぞろえを誇るカー用品店という強みを活かし、顧客が購入した好みのシャンプーやワックスをその場で試せる環境を提供。これにより、単なる洗浄の場から、洗車を通じたカーライフを楽しむ体験の場へと価値転換を図った。

結果、5レーンの洗車スペースで年間利用台数が約4万台という極めて高い稼働率を叩き出した。 この成功は、単に設備が新しくなったからだけではない。同店ならではの独自の運営モデルが大きく貢献している。

その1つが、24時間営業を最大限に活かした顧客の利用機会の分散だ。日中のピークタイムには洗車待ちの列ができることもあるが、「近隣の方は比較的空いている夜間に使っていただいている」という。キャッシュレス化によって時間的制約がなくなったことで、顧客自身が最適な利用時間を選択できるようになり、結果として施設全体の稼働率向上につながる。

屋内駐車場での拭き上げ。3階建てで295台(共用)収容可能、利用者は自由に作業できる

そしてこの稼働率にさらに拍車をかけるのが、広大な拭き上げスペースだ。洗車レーンの隣には掃除機が設置された4台分のスペースがあるが、それだけでは到底足りない。そこで同店は、有料の立体駐車場全体を事実上の拭き上げスペースとして開放している。

利用者は洗車後、空いている駐車スペースに車を移動させ、時間を気にすることなくワックスがけなどの作業に没頭できる。この「ピット貸し」にも似た仕組みが、こだわり派のユーザーから高い支持を得ている。

さらに、夜間利用者のため24 時間稼働の洗車用品自販機を設置するなど細やかな配慮も怠らない。

店内には常時2万点のカー用品を用意。東雲店限定のPB品も高い人気を誇る

完全無人運営を支えるためのバックヤードの仕組みも進化している。当初、想定を上回る利用頻度から洗剤などの溶剤が頻繁に切れるという問題が発生した。以前は各機械に個別に補充する必要があり、特定のレーンだけが使用不能になることもあったという。

この問題を解決するため、メーカーと協力し、全レーンに一括で供給する集中タンクを導入。さらに、そのタンク容量も当初の20リットルから50リットルへと大型化し、補充の手間を大幅に削減。安定したサービス提供を実現している。

同店の洗車事業が成功した背景には、地域特性を見据えた的確なポジショニングがある。岡田氏は「近隣で手洗いでやれる洗車場はあまりない」と語る。都市部における洗車難民の受け皿として、確固たる地位を築いているのだ。

周囲は道路や住宅に囲まれているが、施設が建物の内側に配置されているため騒音問題も発生せず、24時間営業が可能という立地的な優位性も大きい。

今後の展望について、岡田氏はまず洗車スペースの増設を検討していることを明かした。旺盛な需要に鑑みれば、自然な経営判断だろう。さらに長期的には、顧客ニーズの変化への柔軟な対応を視野に入れる。

EV化の進展で従来のサービス需要が先細りしていく中、自動車事業者は新たな収益モデルの構築を迫られている。同店の取り組みは、顧客の「車をきれいにしたい」という普遍的なニーズに応えることが、いかに強力な事業の柱となり得るかを示している。

→特集④に続く