「DTCが多すぎて分からない」が起きていないか
「DTCがいくつも出ているけど、どれから見ればいいんだ……」、「全部関係ありそうに見えるし、正直よく分からない……」こうした場面はないでしょうか。
同じ電子制御の不具合でも、すぐに原因にたどり着けるものと、複数のDTCが出て手が止まってしまうものがあります。1つずつ確認しても決定打が出ず、時間だけが過ぎていくこともあります。なぜ、このような差が生まれるのでしょうか。
具体例で見ると違いが分かる
まず、エンジン制御の例で考えてみます。エンジンの不具合では、センサーの信号を1つのECUが受け取り、その中で処理してアクチュエーターを動かします。そのため、不具合があれば、原因はそのECUの中か、その前後の部品に絞ることができます。どこを見ればよいかが分かりやすく、順番に追えば原因にたどり着きやすい構造です。
一方でADASでは、1つのECUだけで完結することはほとんどありません。たとえば、車輪速センサーの信号はまずABSのECUに入り(図1)、そこで車速に変換されて他のECUに渡されます。その情報を受け取ったECUが、さらに別の制御に使うといった形で、複数のECUが連携して動いています。

この場合、不具合の原因は1つの場所にはとどまりません。センサーなのか、最初のECUなのか、その先のECUなのか、それとも途中の通信なのか。原因の候補が一気に広がります。ここが、従来のエンジン制御と大きく違う点です。
なぜ複数のECUが連携するのか
こうした構造は、単に複雑化しているわけではありません。 たとえば、自動ブレーキでは、前方の情報を基に急ブレーキをかけますが、その制御を1つのECUだけで直接行うと、操舵中や滑りやすい路面では車両の安定性が保てず、かえって危険になる可能性があります。
そのため、ブレーキや車両状態を管理している別のECUと連携しながら制御を行う必要があります。安全に動かすため、複数のECUが協調して働く構造になっているのです。
構造が変わり、原因が「複数の間」に広がっている
この違いは、構造の違いによって生まれています(図2)。
これまでの整備は、センサー・ECU・アクチュエーターが1つの流れでつながり、1つのECUの中で処理が完結する構造でした。原因は「1つの中」にありました。しかし現在は、複数のECUが通信でつながり、情報をやり取りしながら制御する構造に変わっています。
その結果、原因は「1つの中」ではなく、「複数の間」に広がるようになりました。どこに原因があるのかを見つけること自体が、難しくなっているのです。

1つの原因で複数のDTCが出る
さらに、もう1つ見逃せない変化があります。1つの原因で複数のDTCが発生することです。複数のECUが連携しているため、1つの不具合が複数のECUに影響し、それぞれが異常と判断します。その結果、図1のように、1つの原因から複数のDTCが出てきます。
たとえば、車輪速センサーに異常があると、ABS ECUでは原因に近いDTCが出る一方で、車速情報を使っている他のECUでは別のDTCとして現れます。そのため、複数のDTCが同時に現れることになります。ただし、すべてのDTCが同じ意味を持つわけではありません。原因そのものを示すものと、その影響で出ているものが混ざっているのです。
診断が拡散し、「迷路」に入る
こうした構造とDTCの分散が重なると、診断は一方向に進まなくなります(図3)。図3のように、あるDTCを点検しても異常が見つからず、別のDTCを追っても決定打が出ない。結果として、「次に何を確認すべきか」が分からなくなります。診断が広がり、“迷路” に入ってしまうのです。
これは経験が足りないからではありません。原因が1つの場所に集まっていないため、従来のように順番に追っていくだけでは対応できなくなっているのです。

経験だけでは診断できない構造になっている
ここまで見てきたように、
・原因の場所が広がった
・DTCが分散して現れる
・診断が1方向に進まなくなる
この変化によって、故障診断の難しさは大きく変わっています。
難しい故障とは、特別なものではありません。構造が変わったことで、誰にとっても難しくなっているのです。
このような構造では、経験だけで当たりをつけていく方法には限界があります。システム全体のつながりを理解していないと、診断の道筋が見えなくなるのです。
次回予告
では、こうした電子制御の不具合の中で、なぜ「すぐに分かるもの」と「手が止まってしまうもの」に分かれるのでしょうか。
現場では、「これは簡単」、「これは難しい」と感じる場面もあります。
次回は、どのような故障が難しくなりやすいのか、その見分け方について整理していきます。
(筆者プロフィール)
佐野和昭
東北大学 工学部卒業後、トヨタ自動車へ入社。アフターサービス部門に配属され、品質管理からサービス企画・改善、部品のマーケティングまで幅広い分野を担当。その後、自研センターの取締役に就任。新しいアルミ修理技法などの修理技術開発を担当し、機械・工具メーカーなどと意見を交わした。現在は、車体整備をはじめとした整備関連業界において複数社の顧問を務めると同時に、セミナー講師やコンサルタントとしても活躍中。