正しい自動車整備とは何か。高い技術力とは何か。整備士が行うべき診断とは何か。
高度な自動車整備が求められる時代だからこそ、卓越した技術で自動車整備をリードする匠の整備実例から真の自動車整備を学ぶ。整備士が社会的に正当な評価されるために、整備実例を公開する「メンテナンスnote」は電子制御装置整備の診断事例である。
オートバックス次世代自動車研究所(略称ABNL・旧社名:車検・鈑金デポ)はメーカー純正を含めたあらゆるスキャンツールとSSTを保有するとともに、整備要領書に忠実な整備作業の実施による適正かつ正確な整備への定評は整備業界で名高く知れ渡っている。とりわけ、電子制御装置整備にかけてはセカンドオピニオンとしての依頼も多く、国内整備事業者でもトップクラスと評価され、スズキ・スイフトスポーツについてはエイミングの聖地とも言われている。
その同社に入庫してきたのが、ADASの不具合による、まさにスイフトスポーツ(ZC33S)だった。
入庫経緯
「約1ヵ月前から警告灯が点いたり消えたりを繰り返している」とお客様。すでにディーラーで診断を受けており、「デュアルセンサブレーキサポートカメラ交換」と診断された。
しかし、「本当にカメラが原因か?」との疑問から、セカンドオピニオンとして入庫した。
最近のADAS(先進運転支援システム)は、下記のユニットに代表されるように多くのECUがCAN通信によって連携するため、DTCだけで部品交換を判断するのは早計である。

同社では「本当にその部品が故障しているのかを確認することが重要になる」との心構えから、スイフトスポーツの故障診断をスタートした。
まずは全ECU診断
故障診断機を接続し、全システムをスキャンすると、「デュアルセンサブレーキサポート」が「応答なし」との状態を確認する一方、エンジン/ESP/パワーステアリング/BCM/メーターなどのECUは正常に通信していることも確認した。

この結果から、車両全体の通信異常ではなく、「デュアルセンサブレーキサポート」系統に問題があると判断した。
しかし、ここで重要なのが、「応答なし=カメラ交換」と判断してはいけない。通信できない原因には、下記の項目など様々な可能性を検討・検証しなければならないからだ。

CAN通信とは?
近年の車両は、ほぼすべてのECUがCAN(Controller Area Network)というネットワークで接続されている。CAN通信は、CAN-H(High)。CAN-L(Low)という2本の通信線を使う差動通信である。
今ではCAN FDも普及し、通信速度は最大10Mbpsに達している。この高速で安定した通信を実現するため、ネットワーク両端には120Ω終端抵抗が設置されており、この終端抵抗が正常に機能することで、通信波形の品質は維持されている。
CANライン診断
次に、デュアルセンサブレーキサポートカメラのCANラインを測定した。

結果は、∞Ω(無限大)となり、正常値ではないことを確認。

比較のため、BCM側CAN回路を測定したところ125.3Ωを示し、終端抵抗として正常な数値を確認。

つまり、BCM側ネットワークは正常である一方、カメラ側は∞Ωとなったことで
✔ CANライン断線
✔ カメラ内部回路開放
上記のいずれかが発生している可能性まで絞ることができた。
CAN抵抗値から分かること
CAN-HとCAN-L間の抵抗値測定は、非常に有効なトラブルシュート手法である。
一般的に、
約60Ω→ 正常
約120Ω→ 終端抵抗片側断線
120Ω以上→ 通信ライン異常
∞Ω→ 完全断線またはECU内部開放
0Ω付近→ ショート
と判断できる。
テスターによる基本測定は今でも重要であり、かつ有効である。
電源供給確認と診断結果

次に、カメラ本体への電源供給を確認。
結果は約12Vとなり、「ヒューズ切れ」「電源断線」などの可能性は低いことが分かった。
ここまでの結果として下記の通り整理ができた。

これらの測定結果から、デュアルセンサブレーキサポートカメラ内部故障の可能性が極めて高いと判断した。カメラの交換を実施し、交換後の通信復旧確認およびエイミング作業の実施を予定。
ABNLの考え方
ABNL(車検・鈑金デポ)の上松禎知社長は「近年の車両は、故障コードを見るだけでは正確な診断はできない。重要なのは、以下のプロセスで行う基本に忠実な診断だ」

「今回のケースも、『カメラ交換と言われた車両』をそのまま交換するのではなく、なぜ交換が必要なのか。本当に交換が必要なのかを測定結果から判断し、一つずつ裏付けながら診断を行うことが大切だ。電子制御装置整備の時代だからこそ、部品交換技術ではなく、故障を論理的に特定する診断力が求められる」(上松社長)
(整備事例・画像提供)
オートバックス次世代自動車研究所(車検・鈑金デポ)
(原稿編集)
プロジェクトD 泉山大