カスタマーハラスメント対策義務化 自動車販売と整備事業者のカスハラ対策 今問われている経営者の姿勢

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泉山 大(プロジェクトD)
カスタマーハラスメント対策義務化 自動車販売と整備事業者のカスハラ対策 今問われている経営者の姿勢

 2026年10月1日より、改正労働施策総合推進法が施行され、すべての企業を対象とするカスタマーハラスメント(以下、カスハラと表記)対策が法律で義務化された。もちろん、自動車整備事業者も例外でない。

 自動車販売や自動車整備の現場は、車両の購入金額や修理(車検)の費用が多額であること、また自動車整備(車検・点検)という目に見えない品質や制度の特性により、ユーザートラブルが発生しやすい環境にある。こうしたことから、自動車販売とアフターマーケットの業界では以前より、ユーザーのカスハラ行為が横行しているなどと言われている。

 こうしたトラブルに巻き込まれたフロントマンや整備士も少なくはないだろう。トラブルにより、会社側は多くの労力を使い、従業員は精神的、体力的に大きな負担を強いられるなど、損失とダメージは計り知れない。

 今回の法改正は、悪質な顧客の言動から従業員の心身を守り、企業が持続可能に成長できる職場環境を維持することを目的としている。

 一方、自動車整備はディーラーや他の自動車整備事業者から業務を委託されるケース、または逆に業務を委託することも想定される。改正労働施策総合推進法では、エンドユーザーのみならず、取引先もカスハラの対象としており、自動車整備業界はエンドユーザーと取引先との両面を睨んで、カスハラ対策を講じる必要がある。

 なお、改正労働施策総合推進法施行直前の9月上旬にクラウドサービスを手掛ける企業が行ったカスハラ実態調査では、カスハラを受けた従業員のうち、74.9%の人が会社への相談・報告をためらった経験が「ある」と答えた。

 その理由のうち、38.5%の従業員が「取引先との関係悪化が心配」と回答するとともに、30.8%の人は「売上や契約への影響が心配」と答えた(下表)。従業員にとって、対取引先との関係性がカスハラが顕在化しにくい構造を作っていることがうかがえる。

 また、取引先のケースでは自社が加害者になる可能性もあり、対取引先(BtoB)を想定したカスハラ対策も不可欠である。

出典:KiteRa 「カスタマーハラスメントに関する実態調査」

 今般、企業が義務付けられた対策は以下の5つの措置である。

1.カスハラに対する方針の明確化と周知

経営者は「カスハラを許さない」「従業員を守る」という企業としての方針を明確に打ち出し、社内規程やWebサイトなどに明文化するなど、全従業員に周知

2. 相談体制の整備

従業員がカスハラ事案に遭った際、すぐに相談できる窓口を設置

3. 事後の迅速かつ適切な対応

事案が発生した場合は速やかに事実関係を確認し、メンタルヘルスケアの実施や配置転換など、被害を受けた従業員の負担を軽減する措置を講じる

4.対策の実効性を確保するために必要なカスハラの抑止措置

特に悪質なカスハラ事案を想定した事案の抑止措置。

顧客などとの業務証跡を残すための録音・録画、実名名札の廃止など

5. プライバシー保護と不利益取扱いの禁止

相談者や事実確認に協力した従業員のプライバシーを保護し、相談したことを理由に解雇や減給などの不利益な取扱いの禁止

画像はイメージ

 前述のカスハラ実態調査で、会社への相談・報告をためらった理由として取引先や契約の関係を危惧する回答以外では、その事案が「カスハラに該当するか判断できなかった」が23.8%、「自分の対応に問題がなかったか不安だった」が13.3%、そして「相談先が分からなかった」が12.6%を数えた。

 しかしながら、取引先との関係悪化やその事案がカスハラに該当するか否か、そして自身の対応に問題がなかったか、という判断は、従業員個人がジャッジする、もしくは判断できるものではない。また、クレーム事案が多い自動車アフターマーケットの業界では、むしろ勝手に従業員に判断されても困るのである。

 当事者ではない第三者的な視点から、事案を検証し、判断する機関と機会が必要であり、またそのエビデンス(証跡)をできうる限り取得できる仕組みも重要となる。

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 今回の法改正によって、カスハラ対策を実施しなかった企業の罰金や業務停止といった直接的な刑事罰は特に設定されていない。しかしながら、対策の未実施が明るみに出て、是正勧告に従わない悪質な企業と判断された場合、厚生労働大臣による「助言・指導・勧告」および「社名公表」というペナルティが科される。

 また、カスハラを放置して従業員が精神疾患を患ったり、自殺に追い込まれたりした場合、企業が「安全配慮義務」を怠ったとして、損害賠償を求められるなどの民事上のリスクが生じる可能性は高まる。

 しかし、それよりも何よりも、カスハラ対策を怠っている会社に対して、従業員は経営陣に対してどのように思うだろうか。従業員が「会社は我々を守ってくれるだろうか」「安心して働ける職場ではない」と判断した場合、離職する人も出てくるのではないだろうか。

 カスハラ対策を通じて、問われているのは経営者の姿勢である。

 次回は自動車整備業における現実的なカスハラ対策をお伝えする。